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イネイが両親との思い出に浸っていると、突然、地面に赤い斑点が目に入った。雨に流されていないことから、今出来たばかりだろうと思われた。
(何かしら?)
目で斑点を追うと、黒い羽が落ちていた。白茶の石畳の上に置かれた赤の点と、黒い羽は鮮やかに映えていた。
(猫が鳥を食べたのかもしれない。可哀想に)
しかし、イネイが血と羽を追ってたどり着いたのは鳥ではなく、怪我をした少年だった。少年は全身に鋭利な刃物で斬られたような傷を負い、背中にはぼろぼろの黒い翼を持っていた。イネイは彼の美しさに息を飲んだ。 彼は赤い瞳でイネイを睨んだ。それは恐ろしいと言うよりも、捨てられた仔犬の目に似た瞳だった。
「あの、これを」
イネイは彼に傘を差し出した。しかし、彼はその傘をイネイの手もろとも払いのけた。イネイは尻餅を着き、傘は地面に落ちた拍子に開いてイネイが来た道を塞いだ。
「何のつもりだ」
彼は肩で息をしながら立ち上がった。血が雨に流されて行く。
「何の、って、助けようと思っただけなのに」
「馬鹿か。全く、悪運も尽きたな。よりによってこんな所で、こんな時に」
壁に手を当てたまま後退する彼に、イネイは肩を貸した。彼は驚いた様に身をよじったが、イネイは彼を放さなかった。子ども一人を払い退けられないほどに、彼は弱っていたのだ。
「雨が止む前なら、ザハトで人に会うことはないわ。悪魔なら悪魔らしく人を利用したら良いじゃない。悪魔のくせに、遠慮なんかしないでよ。調子狂っちゃうわ」
「馬鹿か、お前。自ら地獄に落ちる事を選ぶつもりか。さっさと離れろ。誰かに、見つかる前に」
掠れた声でそう言って、彼は膝から崩れた。体格の割に重さがない。イネイはその事実に安堵しかけた。しかし、それもつかの間だった。彼の翼が消えた瞬間、彼の体がずっしりと重くなり、急に熱を持ったのだ。イネイは困惑しながらもやっとの思いで彼を家まで運んだ
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