第96話「ユータスの在庫」
『ええっと、これは……』
『どうよこいつぁ!』
ユータスに連れられてランがやってきたのは歓楽街の一画、観光に来た人々が一時荷物を預けることが出来る施設だった。
建物内はこの騒ぎによって無人になっており、通路には逃げ遅れた数名が倒れ伏している。当然中を利用するにはアクセスキーが必要だったが、そこはランが無理矢理開いていた。
受付から通路を進んだ奥の特別大きな部屋で、ランは立ち尽くしている。部屋の隅に転がった警備機械が誰かを踏みつぶしているだとか、壁に空いた穴と本体に突き刺さった杭のような弾頭だとか、そんな惨劇の様子……、に足を止めたわけではなかった。
ユータスが端末を操作し、地下の倉庫から上がって来た自身の預け品を自慢気に披露している姿に、唖然としてしまったのである。
『禁制品、ですよねミスターオデオン』
『おいおいここまで来てそんな細かいこたぁ言いっこなしだぜ?』
そこに並べられていたのはいくつもの箱に納められた個人装備だ。身体、体幹と手に装着し重力場操作とエア噴出により空を飛ぶ、ひと昔前の娯楽品。
首都は制限があって飛ぶことは出来ず、主に他の観光地で制限つきで使われていたものであり、40年前反政府軍が大量に運用したことにより全面的に流通が禁止されたものだ。
ランも記録だけで存在を知っていたが、目にしたことで関連データが記憶に浮かび上がる。それによると入植前、移民船の時代は一般的な個人装備で、無重力下での運用から発展したもののようだ。
要するに今でいう宙域活動用スーツの発展型か、とランは納得し操作方法をインストールしようとして手が止まる。
『これ、全てがフライングユニットですか?』
『おう。発掘品だが、苦労して独占した逸品よ!』
『随分古いもののようですね』
ランがそのうち一つを箱から取り出し、検分していた。背部にぴったりと背負うように装着する本体は薄く、三つの噴出口がついていて、そこから両腕に向けてラインが伸びて腕に装着する部分と繋がっている。
腕部のパーツは装着部分と表示系統のパネル、手袋のような操作盤がついていた。
ランが驚いたのは首元と接続する機器がないことで、それはそれだけ古いものだと示している。
更に言えば、全て手袋状の操作盤で操作するという大変危険な代物だというアナログさにも驚愕だ。動力と繋いで操作盤の操作によって原始的に動力の向きを変えるだけのもの、旧時代の遺物。
『いいですねミスターオデオン。これだけアナログなら、グビアを騙せるかもしれません』
『騙す? どういうこった』
『いくら私がレーダー機能を誤魔化すことが出来ると言っても個人では限界があります。それに最新式のユニットでは駆動や制御を感知される可能性が高い。その点、これならば古すぎてデータにない。私の方でも引き出せたのは首元に装着し挙動を操作できるものでした』
『そんなに古いもので大丈夫なのかよ』
『問題ありません。構造解析も済みましたし、あとは実践して操作方法を確認するしかありません』
『まぁ、いけるってこったな?』
『はい。というわけで、こちら全てを飛ばします』
『は?』
にやにやと笑っていたユータスの表情が固まった。目を真ん丸に開き、口が開いたまま止まっている。その表情に、ランはご満悦だった。
『全て、飛ばします』
『おい、おいおい。ちょっと待て。ここにあるユニット全部飛ばすっていうのか?』
『はい。私が単独で飛んだところで捕捉されてしまいますから、まるで事故があって密輸されていたユニットが無軌道に空に飛びあがったかのような演出が必要です』
『冗談だろ!?』
『当然本気です。それに紛れて私は自身を秘匿しながら飛び上がります。誤魔化せるのはレーダーまでであり、肉眼や光学画像解析などでは見つかってしまいますから、如何に多くのデコイを飛ばせるかが重要です』
事も無げに宣言してユニットを装着し、動作を確認し始めたランにユータスは縋りついた。今にも泣きそうな顔である。
『待て待て待てって。さっき言ったよな!? 苦労して独占したんだって!』
『そのようですね。ご苦労様でした』
『違うだろ!?』
『……ありがとうございました?』
にっこりと微笑むランは強引にユータスを引き剥がし、積み上げられた箱と向き合った。
一体いくつのユニットがあるのか、これらを全て起動してここを爆破、演出しなければならない。時間的にもユータスに構っている猶予はないのだった。
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