第64話「微睡みの中で(3)」
紅く、靄のかかったかのような濃淡がついた空が見える。尾を引く飛行機雲の筋がどんどん伸びていく。ガチン、という金属的な接続音がして、半覚醒状態で風景を見ていた私は引き戻された。
「くっ……」
慣れない衝撃に息が漏れる。アドレナリンの放出で身体が一気に熱くなり、全身に力が入っていった。そのまま滑るように、視界は移動する。私の入ったポッドごと、機内をスライドして射出されるのだ。
脇に見ていた飛行機雲を尻目に、軽い浮遊感。遠ざかる紅い空と乗っていた輸送機。迫る大地。砂。砂。岩。
『グループナンバー01から04展開後前進、隊列を組んで側面を撹乱せよ。05から08はその場を確保、後方支援到達まで待機防衛せよ』
頭に響く声。落下の衝撃。開いたハッチとポッド左右が開いて装備が見える。私のグループは06だからこの場の確保だ。左の開きからアーマーを軽く着込み、右のライフルを取って走る。
所々に岩の見える砂漠地帯。少しだけ足をとられるが、砂地での歩行データを引き出して対応。
『06小隊、確保やめ! 後方支援は流れた。俺らに支援はねぇ! このまま前進して交戦する。各員装備報告』
『『グリーン!』』
『エラー、落下衝撃により主兵装ロスト!』
自隊員と現場指揮官とのやり取りが流れる中、目の端では網膜投影された情報で各員に配置指示が飛んでいる。私の配置は小隊合流し、戦闘単位としての前進指示。
『情報更新。3分後、2分間の電子制圧がある。そのタイミングで前方流砂を渡り、敵後方を脅かす。各員渡河調整、1分で渡り切れ。相手は対応して電子戦レベルを上げるだろう。こちらはそれに付き合わず最低限の電子サポートを残して電子母艦はこの地域のサポートを切り上げる。いいか? 接近を悟られるなよ!』
私たちが集まったのは砂にまみれた岩陰だ。前方には流砂が流れており、視覚情報に速度と深度が表示されていく。
今は電子戦サポートで私たちの降下は隠されており、先に出た01から04が囮となっていた。その稼いだ時間で流砂を渡って敵の本体を叩く。
『3、2……、GOGOGO!』
岩陰を飛び出す仲間たち――。ああ、この結末は知っている。確か、目視されて。それで。これは何回目の肉体だったか。
飛び出した私たちは流砂を渡り切り、集合するところで砲撃を受けた。飛び散る仲間たち。同じような顔をしたインスタントたち。
急な攻撃に身を伏せたのも束の間、浴びせられた砂を貫通するほどの一斉射撃で、私のこの時の肉体もバラバラ砕けて飛んで行った。
飛んだ首から上で、くるくると回転する空と砂を見て。流砂に流されながら沈んでいくところまでは覚えている。
この時、電子制圧が行われていたおかげで、私の意識と記憶はサルベージされたのだ。あと一分攻撃が遅ければ、この時点で私は消えていただろう。
ピピッ、ピピッ、という電子音が響いていた。その煩わしい音で少しだけ目が覚める。何か、あまり良い夢ではなかったような気がする。
あれ、この音なんだっけ。何か大事な仕掛けをしていたような。
顔をあげ、私はベルトを外す。そのまま降りて、乱れた金髪を後ろでぐいっとまとめあげ、はたと気付く。そうだこの音は。
「ミシェルとフィルの接近警報……」
私は寝ぼけていた頭を振り、手早く上着を羽織る。下着姿にただ羽織っただけだが手遅れになる前に突入しなければ。
ミシェルはナビとしてフィルの宇宙船に一緒に乗っている。
ミシェルの力なら遠隔で全てをコントロールすることも出来たのだけれど、原理のわからないものを前提に命の危険があっては困るから。
特に宇宙空間では何が起こるかわからない。万が一何等かの障害で接続が絶たれても大丈夫なように配慮しておく必要があった。
とはいえ大丈夫とは思いつつも万が一を考え、夜に二人が接近した場合警報が届くように設定しておいたのだ。この警報はつまり、そういうことだ。
ついに我慢できなくなったか――。
私は気合を入れて自分の宇宙船からフィルの宇宙船への接続路へと進んでいた。
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