第49話「拘束」
『協力はしないと言ったし、見守るとも言ったがフィル・アーゲン。この扱いはどうなのかね』
『文句を言うな』
『やり過ごせる5隻もの探査艇をわざわざ相手にするのは、賢い者のすることではないと思うが』
『バカで結構』
『……おおよそ君の人間性というものが把握できたよフィル・アーゲン。確かにフィリップ・アーゲンとは似ても似つかない』
『それは。何より、だ!』
これは完全に余計な事で、アーゲンの自己満足の行動だった。このままやり過ごせば、5隻もの探査艇を出したにも関わらずちんけな犯罪者を捕らえることが出来なかったとして憲兵隊とポーネリアの失態となるだろう。
それでも、最終的に筋書き通り大きな責任はディーンに押し付けられ、これまでの仕打ちも仕方がなかったこととして処理される。散々振り回しておいて、そんな向こうの都合通りの展開、認められるはずがなかった。
ここまでも十分なめた真似をしてくれたのだから、一撃くらい加えたいという欲目。脱出後自分は何とかなるとして、それを利用してアンデッカーに働いた不義理を正当化されるのが気に食わない。
『そもそも私の語ったことが本当で、こちらが推測した向こうの筋書きがその通りという保証はどこにもないわけだが』
『そうだな』
『頭に血が上っているのか?』
『そうだな』
『やれやれ。勝算はあるのかね。このまま置いて行かれるのだけは勘弁願いたい』
『きちんと首都に連れて行ってやるよ』
『安請け合いは、信用しないことにしているんだが……』
『良し。準備出来た』
そこには、拘束されたディーンの姿があった。飛翔体が衝突して出来た外壁の傷から部材を回収し、ナノマシンで練り上げること数分。ミシェルが居れば早かったのだが、アーゲンはどうにか素材を組み合わせて手枷のようなものを造りディーンへとはめ込んでいた。
おかげでまたも多くのナノマシンが機能不全に陥っている。これから5隻もの探査艇とやりあうことを考えれば大きな出費だったが、アーゲンは出し惜しみしないことにしたのだ。
アーゲンは拘束したディーンを置いてその場を離れ、衝突によって出来た裂傷のような窪地へ身を潜める。船外活動用に腰装備をスーツの外に装備しなおしておいて正解だった。
ここでも惜しみなく、全身にナノマシンを散布して情報を偽装する。偽装と言っても単に死んだナノマシンを利用してレーダー系に誤認させるだけで、簡単な生体感知を誤魔化す程度のもので、要するに死んだふりだ。
ほどなく、放置されたディーンを発見したのか探査艇が5隻ともやってくる。矢印のように前衛三つが三角の位置取りで、真ん中に指揮船らしき船が陣取り、後方警戒が一つという配置だった。
人海戦術がしたいのかしたくないのか。堂々とした展開の仕方には笑ってしまうが、バラけさせないのはアーゲンの狙いとしては面倒な話である。後方警戒を掻い潜らなければポーネリアが居るだろう船には近づけなかった。
そう思って窪地から見守っていると、後方警戒船のデッキに居た人員が降りて行く。どうやら指揮官は自分の船の守りは解きたくないようだ。これ幸いと、ディーン確保に向かう兵を見送ってからアーゲンは動き出す。
窪地を出て身を低くしたまま、後方警戒位置に居た船の真下へと滑り込んだ。アーゲンは見つかっているが見つかっていない。
センサーのフィルタリングというのは結構盲点で、一度ただの物体と認識した以上、その情報は遮断されて監視に浮かび上がってこなかった。まるでステーションの飛翔体対策のように、優秀過ぎて見え過ぎるからこそ生まれた隙である。
精度が悪く地形と認識していれば動いた瞬間判明するのに、見えてしまって何らかの物体だとわかり、わかったうえで脅威度を査定してしまう。そこで脅威度なしのタグ付けがされれば、攻撃などの例外的な行動に出ない限り見落とされるというわけだ。
そういう盲点対策や情報の仕切り直しのために情報官や上級AI機能を積んだ戦闘用センサー、あるいは指揮官がフィルタリングに指示を出すのだが、この程度の探査艇と指揮官なら思慮外だろうと、アーゲンは大胆な行動に出ている。
真ん中に陣取った指揮船とその警護は、後方警戒船が居るという慢心からか左右やディーンの様子に注視していて、全く後方は見ていなかった。
探査艇、特にこのステーションのものは取り物や密輸船を確保するための強襲艦である。対象船に乗りつけてすぐに人員を送り込めるよう後部が平らなデッキとなっていて、多くの兵が待機警戒出来るよう造られていた。
デッキがあるということはその出入り口も当然あり、頻繁な出入りがある分ロックや気圧調整などが緩い。通常、宙域から船内へ入るならいちいち認証や圧調整がなされるが、多くの兵士が一度に出入りする扉ではそんなことをしていられない。
中に入ってから内部で他室内へと続く部分に誰でも使える気圧ロックがあるというのが精々だ。
アーゲンはディーン収容のため外壁へと降下して来た船へにじり寄り、磁力応用でその下部へとへばり付く。そして、時を待った。
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