第24話「いざステーションへ」

「ミシェル!! あなたは命の恩人よ!」


 広場までやってきたニーナは大声をあげながらミシェルへと抱き着いた。ミシェルは自分がやったことがそこまでの事だとは思っていなかったのか、大慌てで首を振っている。

ミシェルは照れながらも困ったかのようにアーゲンへ視線を向けたが、アーゲンも命を救われた一人であるため口は挟まなかった。


 宙賊はまとめて縛り上げ、彼らが使っていた牢獄のような施設にまとめて放り込んでいる。何かの拾い物を探していた彼らにミシェルの姿を見せる事を警戒したアーゲンは、ミシェルの身体コントロールを利用して、全員自分たちで縄をかけさせ、歩いて牢屋に入ってもらっていた。


「フィルもご苦労様。というかごめんなさいね。囮役のくせにまんまと餌に食いついちゃって」

「まったく一時はどうなることかと思ったよ。本当、ミシェルのおかげだな」

「そうね。本来なら私たちが守らなきゃいけないっていうのに」


 ニーナに解放されたミシェルは褒められるのがそんなに落ち着かないのか、そわそわと身を揺らしながら手を振って、そんなことはないとアピールしている。


「で、でもお二人が無事で良かったです。本当、アーゲンさんもニーナさんも、あのままじゃ死んじゃうかもって必死で」

「かもじゃないわよ。あのままいったら死んでたわよ私。ぺしゃんこよぺしゃんこ」

「俺は良くて生きながらの拷問だったな。で、生き地獄の末に死んでたろう」


 二人はしたり顔で頷いている。その顔は真剣そうに繕ってはいるものの、若干ミシェルの慌てようを楽しんでいる節があった。ミシェルはそれを見抜けず、どうしたら良いのか困惑気味である。


「そ、そんな大袈裟な」

「大袈裟じゃないわよミシェル。あなたはそれだけのことをしてくれたんだから、もっと自分に自信を持って」

「そうなんでしょうか。正直降って湧いたような話というか力というか。実感がないんですけど」

「まぁそれは良いじゃない。そんなの、あとで調べればいくらでもわかるわよ。今はその力に感謝しましょ? それで救われた命があるわけだし」


 ニーナはもう一度ミシェルを抱きかかえ、諭すように言った。優しく包むようなその抱擁に、ミシェルは抵抗することなく身を預けて嬉しそうにはにかんだ。


「それにしても、ニーナは救われ過ぎだな。一回目の時も俺が居なきゃ長引いていただろうし。能力はあるはずなのに、あれか。ポンコツって奴なのか……?」

「はぁ? ちょっとフィル、ポンコツとは何よ。確かに今回はヘマも多かったかもしれないけど、私は優秀よ」

「俺もニーナが優秀なのはわかるんだが、こう引きが悪いというか」

「五月蠅いわね。いいのよ、結果的に助かっているんだし。さ、こんな男は放っておいて行きましょうミシェル」


 ニーナは抱えたミシェルをそのままに身を翻し、ポッドの方へ歩いて行こうとする。アーゲンはミシェルに造ってもらった杖を手に慌ててあとを追った。


「おいおい置いていくなよ。流石に死ぬぞ」

「まぁ、まずは第四ステーションに行きましょうか。ミシェルの検査もしたいし、宙賊のことも報告しなくちゃ」

「検査、ねぇ。……大丈夫なのか?」


 アーゲンは精密検査には抵抗があった。ミシェルの桁違いな性能からすれば、どんなパンドラの箱を開くとも限らない。そうなった場合、知ってしまえば連邦軍所属のニーナとしては提出しなくてはならない立場となるだろう。

 そんなアーゲンの不安を感じ取ったのか、ミシェルも不安そうに自分を抱えたニーナを見上げ、首に回された腕を遠慮がちに掴んだ。


「大丈夫よ。ミシェル、安心して。あなたは私の恩人だもの。何があっても必ず家まで送り届けてあげるわ」

「なら良いんだが」

「フィル、あなたも見守るのよ? どうせ色々手続きしないといけないし、一緒に首都に来てもらうから」

「俺としてもミシェルのことは気になるし、依頼主への報告もあるからそれで構わないが」

「構わないが?」


 全員でポッドの前まで来たところでアーゲンが立ち止まっていた。ニーナもミシェルも何事かとアーゲンを振り返っている。


「ミシェルが居ないと宇宙船の操作が出来ない」

「はい?」

「いや、ナビの機能がないとまともに動かせないんだよ」

「なんでよ。そのくらいナビが居なくても手動での対応法があるでしょ?」

「あるけど、講習サボった……」

「残念ねフィル。ここでお別れなんて」

「いやいやいや待て。待ってくれ」


 ニーナはよくわかっていないミシェルを守るように抱え込み首を振っていたが、アーゲンも必死である。将来的にナビ機能は新しく引き継がせるのだとしても、連邦の決算機能等との繋がりがあるため簡単に発行できるものではない。

 ミシェルが家に戻って落ち着いたのだとしても、それらが完了するまではちょくちょく手伝ってもらうしかないわけだ。


「だってステーションまで何日かかると思ってるのよ? その間ミシェルと二人きりにだなんて、させられるわけがないでしょ!?」

「そりゃわかってる。わかってるけど困るから対処法をだな」

「あの、私別に良いですけど」

「良いわけないでしょ!?」


 首を傾げつつミシェルが提案したが、ニーナが力いっぱい否定していた。その勢いに言ってみたミシェルが引いてしまう程の力強さである。


「あのねぇミシェル。あなた、目覚めた時のことを思い出して。あの時の警戒心は何処へいったの?」

「え、だってあれは不可抗力だって……、え? アーゲンさん……?」

「いやいやあれは不可抗力だろう!? そもそも呼んだのはニーナだし」

「でも見たじゃない」

「見たんですか……!?」

「おいおい勘弁してくれ」


 二人に詰め寄られアーゲンは頭を抱えたくなっていた。そりゃナビ任せにして万が一のための講習をサボったのは自分が悪いだろう。だがそれにしたって、こんな白い目で見られる謂れはない、はずだ。

 今度から講習や備えは面倒くさがらず、しっかりやっておこうと心に誓ったアーゲンであった。



     ~第一章「遭遇」編 終幕~

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