第12話「目覚め」

 ニーナが調べた区画には使えそうな工業素材や建築材があったので、ひとまずはそちらへ移動し、必要なものを生成しようという話に落ち着いた。


「ブリッツの生成機は弾薬形成に特化してるから、やっぱりナビの奴が必要よね。あの子が腰につけてるけど、外してブリッツに装着しましょう。壊れてなければ、だけど」

 そう言ったニーナが少女の腰回りを調べていたのだが、すぐにアーゲンを呼び寄せた。


「見てよこれ。服の上のはずなのに、くっついてない?」

「なんだ、これ。どうなってんだ?」

「癒着でもしてるのかしら。フィル、本当にこの子、何気なくつけただけなのよね。溶接とかしてないわよね?」

「ないない。どう見ても、ベルトポーチを付けるような動作だった」


 寝ころんだ少女の腰を持ち上げて引っ張り、ワンピースをめくってどうしようかと相談し合う二人の姿は、傍から見たらただの変質者であった。そしてその二人があまりに五月蠅かったからだろうか、これまで無反応だった少女が反応し始めた。


「う……ん?」


 少女が目を覚ましたのは、丁度ワンピースをニーナがめくりあげ、アーゲンが腰を抱え込んでいるところだった。寝ぼけているのか自身の姿をぼんやりと眺め、それから二人の大人たちを見やり。


「ひっ……、いやあああああああ」

「え? あちょっと」

 悲鳴をあげ、力の限り暴れ始めた。ニーナとアーゲンは驚いてその手を放す。


「な、なによあなたたち!? 私をどうするつもりなの!?」

 後ずさりしながら自分の身を抱きしめ、涙目になって抗議する少女に、二人は目をパチクリ、顔を見合わせた。


「ちょっとフィル。話が違うじゃない。何が無感情な少女よ」

「そんなこと言われても、さっきはそうだったんだ。あれこそ機械的だったんじゃないか?」

「となると、これはプレイモード? 服をめくっていたから?」

「かもしれん。あまり考えたくはないが……」


「あ、あなたたち何なの!?」

 顔を真っ赤にし、叫ぶように声を張り上げた少女に、二人は視線を戻す。見られた少女はまたも息を呑み、怯えるように精一杯睨んで来ていた。


「ええっと。私はニーナ。ニーナ・ハルト伍長よ。連邦軍第三師団に所属しているわ。こちらはフィル、運び屋よ。私たち、あなたが倒れているところを保護したんだけど、傷がないかを調べていたの。その、腰の装備が癒着しているみたいで。目も覚まさないし、外せないか見ていたの。ごめんね、誤解させちゃったかしら」


 ニーナは努めて優しい声色で警戒する少女に話しかけていた。隣のアーゲンは、そんな声も出せたのかと怪訝な顔をしている。


「連邦、軍……? 保護って、あれ。ここ、どこなの?」

 少女はようやく落ち着いたのか、きょろきょろと周りを見て首を傾げる。赤茶の艶やかな長髪がそれに合わせて揺れていた。


「ここは惑星ナーベルの第八倉庫街よ。あなたは食糧倉庫の中で倒れていたの。何か覚えていることはある? 名前は? 近づいてもいいかしら」

「え、ええ。あなただけなら」

「わかったわ。フィル、ちょっと離れていて」


 ちらりと遠慮がちにアーゲンの方を見て言う少女に、ニーナは微笑んで応じた。アーゲンは言われた通り距離を取って背を向ける。あの様子ではプレイ用人格というわけではないだろう。もしそうなら、あの倉庫内で会った彼女は何者だったのか。

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