第11話「違法な少女?」

 アーゲンとニーナは協力して反応のない少女と、もはや機能しなくなったナビを運んで来ていた。場所は最初に食事をした、ブリッツの待つスペースである。


「俄かには信じ難い話なんだけど」

「だよな。俺もそう思う」


 腕を組んだままヘルメットに座り込んだニーナはちらりと横たわったままの少女と、残骸と化したナビを見て考える。


「ブリッツで精査した結果は、何の変哲もない愛玩機体なのよね」

「愛玩っていうと、ペットとかのメンタル介護か?」

「違うわよ。性対象としての意味。だから胸糞悪いのよ」

「こんな少女のなりでか!?」


 思わずアーゲンは立ち上がっていた。確かにいやに艶やかな肌と髪をしていたが、それにしたってあの外見年齢でそっち方面とは思わなかった。


「そう。一体どこの誰がこんな悪趣味なものを造ったのか知らないけど。肌や髪の状態が良いでしょう? そういう行為のために、ケアなんてしなくても維持できるように出来てる」

「……あんまり想像したくない」


「それは何より。問題は人格ね。あなたの話が本当だとして、その機能や言動は置いておいても、この外見でナビみたいに人格を備えるのは明らかにまずい」

「まずい?」


「人型に人格を備えるのは違法よ。理由は、道具としての機能に人権を与えると無用な混乱を招くから。500年ほど前に社会現象になって、最終的に結局道具に人権は邪魔って話になったでしょ。制限のあるAIか、コミュニケーション用にスイッチで切り替えるか。この場合は後者、プレイ時のみ疑似人格が入るようになっているはず」


「なるほど。俺が話したのは、いやまさかプレイ相手と判断されたってことはないよな」

「ないと思うけど。外見で区別がつかないからこそ、通常時は完全に機械的なものじゃないと認可が……、ってそうか。こんな見た目からして違法なんだから、そういうところすら適用されてないのかも」


 ニーナが眉根を寄せて頭を抱え込む。考えれば考えるほど嫌な面が見えてきて、正直放り出したくなってきていた。それはアーゲンも同じようで、苦虫を噛み潰したような顔で、本日何度目かの複雑な表情を見せている。


「違法中の違法か」

「だから連れて行けなかったのかもね。惑星間の移動は必ず細菌や密輸対策に精密検査が待ってるもの。彼女が制限のない人格を持っているのなら、なおさら取り残された事実は不憫だけど」


「だとして、どうする。このまま置いていくってわけにもなぁ」

「いかないわよ。発生は止めるけど、どういう経緯であれ生まれてしまった命、人格には人権があるもの。ここで放置したら私たちが罰則」

「結局そうなるか。しかしナビが居ないと、色々と困るな」


「それよね。これから戦闘かもしれないっていうのに」

「……ブリッツの探査は大丈夫か? この子がすり抜けたように、何か妨害された通路でもあるんじゃないか?」

「んー、どうかしら。この子、機体だから休眠モードならすり抜けるし。逆に、あのAIやナノマシンを刺激して反応を確かめる探査で起きたのかも……。ともかく、やることは変わらないわよ。物資回収して偵察。この子の保護をするにしても、この惑星を脱出できなきゃ仲良く遭難よ」


 予期せぬ保護対象を見つけてしまったが、大きな問題は変わらない。宙賊からポッドを取り戻さなければ保護も何もないのだから。

 長年の相棒を失ったという喪失感がアーゲンにはあったが、それでもナビはナビ。バックアップから復元は可能だろう、と自分に言い聞かせ、残骸となったナビを見つめていた。

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