第8話「探索開始」

「どうしてもっとしっかり隠蔽しておかなかったのよ」

「そもそも賊が居るなんて思ってないんだ。そこそこの隠蔽で要救助者を優先するだろ普通!」

「不用心な!」

「ぐっ……。それで、用心深いあんたはどうやってポッドを壊されたんだよ」

「うっ……。現場上空からポッドで捜索していたら、そのまま」


 恥ずかしそうに目を逸らすニーナ。何が待っているかわからない現場に、大きく目立つうえたいした武装もない降下ポッドのまま、上空からの探索を行ったのだ。不用心度合で言えば確実にニーナの方が不用心である。


「それで、墜落するポッドからブリッツで飛び出したのか……」

「はい。……って私の話はどうでもいいわよ。今はどうするかよ」

「そうだな。足がなくちゃここでサバイバル生活だ。やっぱり賊から取り戻すしかないよなぁ。というか、まだ居たのかよ生き残り!」


 あの場に居たメンバーはニーナが全滅させたはずである。となると別動隊か、そもそも本隊が他に居たのか。どちらにせよ、ニーナとは別の人間が居ることを把握されてしまったと考えて良いだろう。


「やっぱり、この星に根城があるのかしらね」

「だとしたら、ブリッツだけで何とかなるのか……?」

「どうしたってやるしかないじゃない。情報は欲しいけど」

「とりあえず偵察だな」


 電子妨害を抜きにしても、拠点となれば大型の探査機や警戒網があっておかしくない。そのどれか一つでもブリッツの警戒能力を超えていれば圧倒的不利である。数は間違いなく向こうが上だろうから、攻め入ってポッドを無傷で取り戻すのは困難だろう。


「そうね。物資を確認して、色々と計画をたてましょう。この辺にも何か使えるものがないか一旦調べて」

「そうだな。食糧は要救助者が居るかもしれないと余分に持ってきてはいるが、資材さえあればナビで武器を生成できる。違法かもしれないけど、例の特例で何とかしてくれマジでお願いします」

「止むを得ないわね。ま、そこら辺は済んだら証拠ごとデリートよ。私、電子戦は結構強いんだから」

「あれだけの演算をしてたもんな。そこは頼りにしてるぜ」

「任せなさい」


 立ち上がったアーゲンは早速周囲の探索をしようと背を向けたが、ニーナがその肩に手を置いて引き留めた。何事かとアーゲンが振り向くと、真剣な顔をしたニーナと目が合った。青い目は真っ直ぐアーゲンの茶色の瞳を見つめている。


「前回は強引に機械の狙撃をさせちゃったけど。今回は、あなたも対人の戦力として戦ってもらうかもしれない。……それで大丈夫?」

「……ああ。本当は真っ平だけど、こんなところで現地人にはなりたくないしな」

「そう。良かった。人を撃つ覚悟はまた別だから、無理そうなら恥じることなくすぐ言ってね」

「そうするよ。ありがとなニーナ」

「あら、はじめて名前で呼んだんじゃない?」

「そうだっけか」

「そうよ。んじゃ、手分けして使えそうなものを探しましょうか」

「ああ」


 アーゲンはナビと共に。ニーナはヘルメットをかぶり、夜の倉庫へと繰り出した。一応、ブリッツの警戒網は張ってあったが、二人とも用心して武器を携行して歩いていく。


 女一人で大丈夫だろうかと一瞬だけアーゲンは思ったが、アーゲンの用意した食糧や隠し武器の有無なども常にブリッツにチェックさせ、それを言動からは一切感じさせなかったあたり、軍人のしたたかさを思い出して心配するのをやめた。


 それに、そういう面に気づいておいて知らないふりをした自分も自分だ、と気を引き締める。あの気遣いは優しさと、軍人として戦力計算のため。

 それに、そう言われるということは。先の戦いを見て自分が不調に陥っていたのを観測されていたということだ。


 年下の女性に張る見栄なんてないとしても、あまり情けないままではいられない。今夜は、はじめて誰かを殺すことになるかもしれないのだから。

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