第5話「Blitz」

 そこからは一方的な虐殺だった。屋上から逃げようと思ったのも一瞬で、そんなことしなくても良いとわかるくらい。傍目に見ても圧倒的だった。


 単眼鏡から目を離す間もなく、まず拡大されていた3人。ジャミングをしていたナビのそばにいた、指示を出しているらしき男たちが一斉に破裂した。

 文字通り、内側から爆発したかのようにその中身を周囲へと飛び散らせ、かろうじて残った下半身が倒れ込む。


 出力射程レンジアウト。思わず目を逸らしたアーゲンの頭の中に、刻印された兵器のデータが想起されてくる。空気密度や風力などの物理的な干渉なく、焦点を合わせた座標を一瞬にして焼き尽くすレーザー武装。

 個人兵装としては狙撃銃のような運用で、小型の衛星機を飛ばして遠距離目標に焦点を合わせる。大きすぎる電源とリチャージの問題からあまり普及しなかったが、ブリッツのような戦闘車両へ転用されていた。


『たいした演算速度だな。ナビ1機の欺瞞情報すら計算に入れて瞬時に合わせているようだ』

「あ、ああ。敵に回したくないなあれは……」


 潰された指揮系統に混乱する宙賊たちは、その場に身を伏せるだけだった。そのあとをどうするか判断する前に、比較的開けた場所にいた前衛が飛んできた榴弾に炎上。叫び声にならない掠れた悲鳴を最後に、数歩も歩けず燃え尽きる。


 少し後方でそれらを目の当たりにした他の男たちは一斉に走り出す。なるべく隠れられそうな建物の裏や、中を通り抜けようとする彼らだったが。アーゲンが見ている先で、次々と建物越しに正確な射撃を受けて倒れて行った。一撃も外さない。逃さない。

 建物の裏に潜んだ男は建物ごと貫かれ、中に入った男は追うような一発が通ってから出て来ることはなく、窪地に伏せた男は地面ごと吹き飛ばされていた。


『三機居たっていうのがみそよね。そんなの、自分から量産機で画一的な演算しかしませんって言ってるようなものじゃない。ま、運び屋さんには刺激が強かったかしら』


「まぁちょっと、な……。それにしても、建物一棟丸ごと貫通して当てるとは。なんというか、エグイな」

『私のブリッツは出来る子よ。ともあれ助かったわ。一旦合流しましょう』

「そう、だな。色々と聞きたいこともあるし」

『そうね。私も聞きたいことがある。ナビに入れた軍事データも削除しないとまずいしね』


 アーゲンはふらつく頭を振って気を取り直すと、放り出していた改造銃と脇に置いていた荷物を背負ってその場をあとにした。ブリッツの索敵能力を掻い潜って生き残りが居るとは思えなかったが、一応痕跡も消していくことにする。用心にこしたことはない。


「ナビ、有線切るぞ。一応痕跡を削除しておいてくれ」

「了解した。トラッキングにつかまらないよう焼いておこう。先に行っていてくれ」

「頼んだ」

「アーゲン」

「ん?」

「ふらついているが大丈夫か? 激しい戦闘経験は君にとってあまり良くないはずだが」

「何とか」


 アーゲンは手を振り何でもない風を装ったものの、少しおぼつかない足取りで屋上を後にした。

 ナビはその様子をセンサーで追いながら、表面に残された痕跡をレーザーで丁寧に均一化していく。表面を焼いてしまえば、痕跡を消したという痕跡は残るが、それ以上の手がかりは時間をかけるか専用の追跡機シーカーを投入しなければ追えないだろう。

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