第2話「戦闘痕」
「戦闘痕だな」
「……おいおい、
暗がりの中ナビが照らし出したのは、出来たばかりと思わしき煙を上げる穴だった。視野補助ゴーグルの先、壁に穿たれた無数の穴を見て、アーゲンは頬を引きつらせている。
惑星ナーベルへと降下したアーゲンは荷物を背負い、ナビを伴って救難信号が出された付近を捜索しているところだった。
ナーベルはテラフォーミング後、いざこざがあって現在破棄されているため、各地に居住区跡や採掘場がそのまま残されている。アーゲンはそのうちの一つにあたりをつけて降下したのだが、少し見て回っただけで、多くの戦闘痕を見つけてしまっていた。
区画整理された居住区は同じような箱型の、白く滑らかなブロックがいくつも連なり重なった建造物が立ち並び、赤茶けた大地にそびえたつ様は、ここが昼の側ならさぞ良い景観となっていただろう。
しかし夜の中、補正されたゴーグル越しに見えるのは、砲撃でも受けたのか上部が崩れたものや、壁や地面に穿たれた穴の群れ、そして溶けて内側へと流れ落ちた天井だった。
「シグナルは間違いなくセカンドだったが、交戦中に押し間違えた可能性も否定できない」
「
「慎重に行くべきだな」
「この弾痕、古いものと新しいものが入り乱れてるな。ここは戦地でもない、よな?」
「記録にはない」
ナビは白だった表面を暗い色合いに変化させ、照明も消し、残された銃撃の痕を走査していく。アーゲンも身を低くし、腰袋のようなバックパックから護身用の小型銃器を取り出すと壁へと近寄った。
撃たれただろう壁をなぞり、指先についた屑を揉んで粘度を確かめる。
「イオン臭もするし、レーザーか? この惑星を根城にしてる宙賊でもいるのかね」
「あり得るな。違法だが、救難信号を囮にやってきた相手を襲撃しているのかもしれない」
「げぇ。だとしたらステーションへの対応通達は?」
「もしそうなら何処かで妨害されているだろう。どうするアーゲン」
居住区から少し離れ、アーゲンとナビは身を伏せて思案する。戦闘をした者たちが何者だとしても、見つかって良いことはなさそうだ。ここに来るまでに襲撃を受けなかったのはただのラッキーだったとして、このまま進んでいつまでもそのラッキーが続くとはアーゲンには思えなかった。
「しかし、信号の確認もせず引き返してもな。もし本当の救難信号だったら俺らが罰則だろ……?」
「そうなるが、データは採った。提出すれば配慮もされると思うが」
「思うが?」
「体面上運び屋としての免許にマイナスポイントは付くだろう」
「ですよね」
「それよりも交戦相手が居るということは、すでにその罠にかかった何者かが居るのか。もしくは襲撃されたからこそ発せられた救難信号だったか」
「どちらにせよ、本格的な交戦準備が必要だよな。ナビ、これを」
「了解した」
アーゲンが手にしていた小型銃器を、ナビの箱型外装へと放り込む。何秒かして、ナビからは少し形状の変わった銃器本体と、その先に着ける延長バレル、後ろにつけるストックが吐き出された。
「機関部は規定により改造できないが、ロングバレルとストックは成型した。多少マシになるだろう」
「照準器は?」
「それは規定に抵触する」
「命かかってんすけど。鳥観賞の単眼鏡と、土台を別々に作ってくれ」
「了解した」
「ざるだなぁ」
「そう言うな。少し待て」
ナビはそう言うと、使えそうな砂を採取しに低空飛行であたりを見に行った。その間にアーゲンは渡された銃器と各パーツを組み立て、実際に構えて調子を確かめる。
手のひらサイズだった小型銃器が、肩にあてがうストックと、前方に伸びたバレルを備え、即席のライフルとなっていた。
とはいえ大本の弾薬が小さいのでそこまでのパワーは出ない以上、やはり護身用の域は出ない。この銃器以外はそれこそ妨害用レベルだし、本格的な戦闘行為は無理があるだろう。
そうアーゲンが考えていると、遠くで短い炸裂音と、そのあとに腹へ響く大きな音が鳴り響いた。そちらを見やり、アーゲンは険しい表情となる。交戦音が激しい。
「アーゲン、死ぬなよ」
「心配しなくても危なくなったらすぐ逃げるって。っと、ストックとバレルとの連結レール込みか、これなら安定するな」
銃本体の前後につけたバレルとストックに橋をかけるように、金属製のレールを通すことで全体を安定させ、かつそこにスコープもどきを付ける方式のようだ。
戻ってきたナビからその新パーツを受け取り、アーゲンはわざと軽い調子で返していた。まったくもって厄介な事態に巻き込まれたものだ。
「是非生き残ってくれ。特許料に総計2万クレジットの支払い義務が生じているからな」
「……事後承諾やめね?」
「アーゲンは事前許可を求めた場合、フリーライセンスの信頼性にかける装備を選びかねない。その場合交戦時の生存率が下がる。それと、3日間のレンタル権で決済したので、使用後は溶解する」
「わかったわかった。やれやれ。……経費で落ちないかな」
アーゲンはレールを取り付け、そこに鳥観賞用の単眼鏡を固定しながら、もう一度交戦音がした方角を見ていた。先ほどの音はすぐに止んだが、一体何が起こっているのか。
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