第32話宿敵との対面

「奥村って、グレイの製作を依頼してきた政治家だっけ?」


 イバラは、うなりながらも奥村と言う人物について思い出そうとしていた。リサ

の話では、奥村の情報はその程度しか話されていなかったはずである。


「ああ、その奥村は俺の世界を滅ぼした英雄だ」


 俺は、イバラの言葉に頷く。


 俺の世界は、俺の母と妹は奥村という英雄に殺されたのだ。


「じゃあ……奥村のスキルはモニカと同じ世界移動ってこと?」


 俺は、頷く。


 奥村は死んだ俺の世界から、シロが生まれた世界へと移動し、ここでクローンに

人権を与えようとしている。おそらくは、救うために。奥村という人は、根っから

の英雄であった。


「俺の考えていることは、グレイと奥村に世界を移動し続けてもらうことだ」


「私たちと同じ方法を二人に提案するってことか」


 だが、この方法には大きな問題がある。


 まずは、双方の説得。


 特にグレイはシロを殺し、自分の死ぬことを願っている。俺たちの説得に応じる

可能性はきわめて低い。さらに、グレイは――シロの前の人格は奥村に希望を託し

て世界を殺してしまっているのだ。グレイにも、その記憶がある。


 俺の話を聞いたイバラは、脱力した。


 俺も言いながら、二人が一緒に世界を渡り続けることなんて不可能に思えてき

た。特にグレイ側の心情を考えると不可能に近い。


「奥村を殺して、グレイも殺す。英雄殺しとしての正しい手順のほうが、成功率が

高いと思えるぐらいだね。でも――……その手は取りたくない」


 イバラも俺と同じ気持ちだった。


 なら、今は行動を起こすしかない。


「奥村との接触を計ろう。グレイとの戦力差は、三日じゃ埋められないしな」


 グレイは、シロに圧勝していた。


 シロだって弱いわけではない。それでも、負けた。その実力差を縮めるのには、途方もなく長い年月がかかるであろう。だから、今は実力差を埋めることは考えない。


 俺の考えをイバラは理解できないようで、首を傾げていた。


「お前は気絶していたから分からないだろうが、一応対抗手段は用意しておいた。後は、モニカとシロの連携が取れるかという問題だな。シロに危害を加えるなとモニカに言ってはいるが……嫌悪感があるようで、シロとは一切喋っていない」


 モニカは亜人や改造人間系のものが嫌悪される世界出身だというが、逆を言えばそういうものがいた世界にいた出身ということになる。俺たちよりよっぽど人間に近い人間の扱い方を心得ていそうなものだが、そういうわけでもないらしい。


「モニカとシロのことは、もうあきらめるよ。モニカの嫌悪感は「人間の肉体は神に与えられたもの」っていう宗教的価値観から来るものだ。人と似た体でありながらも違う亜人や改造人間が許せないらしい」


 イバラの言葉に、俺は頷く。


 なるほど、根深い。


「……シロを呼んでくれないか。奥村と接触するときに、シロがいたほうがたぶんやりやすい。奥村は俺の顔は知らないが、シロの顔は知っている」


 シロの肉体は、前の人格を消してリサイクルしたものだ。


 奥村も、英雄殺しの顔は覚えているだろう。


「ところで、クロ。政治家の忙しいスケジュールにどうやって入り込む気だ?」


 イバラの言葉に、すでに返答の用意があった。


 過去の俺は、同じ疑問に至った。


 あのときの俺は無理だと思ったが、今はツテがあった。


「奥村は、ここにグレイの発注をしている。なら、リサならば連絡の取り方を知っているはずだ」


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