第26話英雄の正体
シロにアイスを食わせた俺は、もう一度クローンについて検索してみた。
自分の部屋に戻らず、シロの部屋で調べ物をしたのはへこんだときにシロの顔があると気を紛らせると思ったからだ。
案の定、クローンは俺にとって気分が悪くなる使い方をされていた。
この世界の危険な仕事や風俗、そういう場所で働く人間は全部がクローンであった。唯一、クローンが運用されていそうで運用されていなかった場所が戦場であった。どうやら法律的にクローンを戦場に出すことは出来ないらしい。
俺は、そのことが少し不思議だった。
クローンに汚れ仕事をさせて保っているのがこの世界だとしたら、クローンを兵士にすることだって真っ先に考えそうなものである。
「なぁ、シロ。この世界のクローンって、ロボット三原則的なものがあったりするのか?」
俺の質問に、シロは少し考える。
「あるといえばあるし、ないと言えばない」
「なんだその、微妙な返答は」
「クローンに、人を傷つけてはいけないとプログラミングすることは可能だ。けれども、それは人間に道徳的を教え込むこと同じだ」
シロは「んー」と考え込む。
どうやら、たとえが難しいらしい。
「同じ教育を受けても、普通の大人になる奴と犯罪者になる奴がいるってことか?」
「そう、かなり個性によって行動に影響が出る。普通だったら問題がでても記憶を全て消したり、クローン自体を消去するけど……戦場ではそうもいかない場合も多い。消されることを嫌がったクローンが武器を持って、人を攻撃することも考えられる」
シロを見ているとわかるが、クローンも人間も大差がない。
いや、クローンは人間の複製品だから代わりがあるはずがないのだ。
「クローンが兵士にされないのも、そこらへんが理由なのか?」
「少し違う。兵士は職業だから、クローンがつくことが出来ない」
シロの言葉に、俺は混乱する。
少し時間を置いて考えて、クローンが完全に個人の所有物であるのだと理解した。だから、売り買いができる。そして、クローンがやっている仕事も、あくまでも購入者が手伝わせているという名目で賃金は発生していないのである。
だが、兵士や兵隊は違う。
彼らは、基本的に国に雇われる公務員である。
だから、クローンはなれないという説明がなりたつらしい。
「同胞がこんな使い勝たされて、お前は腹が立たないのか?」
聞くべきかと迷ったが、俺はあえてシロにこの質問をしてみた。
同類への非道を許せるか、とたずねてみた。
「自分に同類はいない」
とシロは答えた。
「自分の能力は、一人で異世界を生き残れるようにと設定された。この世界で生き
るためにじゃなくて。だから、自分はこの世界の住人じゃない。自分が誰かのクローンであるという情報は、あまり意味を持たない。だって、それは異世界では無意味だ」
シロは、カミサマの注文によって作られた。
この世界で生まれたといっても、それは工場がここだっただけだ。
シロにとっては、ここは病気や怪我をしたら来る病院みたいな場所にすぎないのだろう。
「シロは、他のクローンを自分の仲間とは認識できないか……」
シロはずっと異世界にいたのだから、仕方がないのかもしれない。
だから、この件でシロを当事者として扱うのは間違っている。
「クロ、もしもお前がこの世界のことを変えようと思っても動くな。動けは、それ
ば英雄だ。いつか世界を殺す」
「……分かってる」
異世界で何かが間違っていると思っても、変えてしまえば英雄になる。
「クロ、動くな」
シロは、俺にもう一度言った。
実は、ネットを見ているうちに英雄だと思われる人物を発見したのだ。
彼の名前は、奥村。
クローンを兵士化させようとし動いている人間であり、政治家だ。俺が、何故彼が英雄だと分かったのかと言うと――彼は俺の世界にもいたのだ。
英雄として。
奥村は、俺の世界を殺した英雄なのである。
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