第9話 全然な誘い

 花火大会まで一週間切った木曜日の夜、清水はつぐみさんと仕事をしていた。


 今日はなんだか忙しくなかなかつぐみさんと会話ができない。気がつけばもう閉店まで三十分前だ。


 なんとか隙を見つけてつぐみさんに話しかける。


「つぐみさん! つぐみさん!」

「どうしました?」

「つぐみさんって花火好きですか?」


 清水のプランはこうだ。花火を好きかどうか聞く→当然好きと答える→たまたまチケットもらったから花火行こう→OK→ミッションコンプリート!


「普通です」

「え?」


 予想外の反応、それでも誘うしかないと考える清水。


「たまたまもらったチケットg」

「お~い清水ちょっと品出し手伝ってくれや!」


 間の悪いタイミングで店長から仕事の依頼。結局閉店まで店長と品出しをすることになった。


「お疲れ様です」


 つぐみさんが帰ろうとする。急いで引き止めなくては


「つぐみさんちょっと待って!」

「どうしました?」


 焦って声が出ない清水。


「ん? 清水さん?」

「これ! もらったんです!」


 花火大会の有料観覧席のチケットを見せる清水。


「あ! 今度の花火大会の観覧席のチケットですか! もしかしてくれるんですか?」

「え? あ……そうです! そうです!」

「わあ! ありがとうございます!」


 会話の流れから誤ってチケットをあげてしまう。計画が失敗だ。勝俣さんに殺される。


「清水さんは行かないんですか? 花火大会?」

「え?」


 本日三回目の、え? 


「行きたいです……」

「じゃあなんで私にチケットあげちゃってるんですか? 清水さん行けばいいのに……」


 つぐみさんの言う通りだ、なんであげっちゃうんだかまったく駄目駄目な清水である。


「あ……もしかして私を誘うとしましたか?」

「そんなことないです全然ぜんぜん!」


 せっかくのチャンスを棒に振る清水。


「全然って……私と花火大会行くの嫌なんですか?」

「そんなことないです全然!」


 またも同じ言葉しか発しない清水。


「え? どっちなんですか結局?」


 このタイミングだ。ここでぶつけるしかないと思う清水。


「つぐみさんと花火行きたいです! いや行かせてください! 全然!」


 もはや全然の使い方を間違えてる清水。


「私じゃないと駄目ですか?」


 上目遣いで清水を見るつぐみさん。全然目がキュートだ。


「つぐみさんとがいいです! 全然!」

「フフフ、わかりました! 全然! 行きましょう二人で!」

「ありがとうございます! つぐみさん! 全然!」


「全然!」


 こうして二人で花火大会に行くことが決まった。





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