第7話 チーズケーキを作ろう

 アルバイトがない月曜の夜、清水は母からおつかいを頼まれYOマートに来ていた。


 YOマートでは入り口に来店ポイントがもらえる機械が置いてある。ポイントカードを機械に通すと、


「カードを選んでね♪」


 と機械から指示がありタッチパネル式の三枚のカードを選ぶ。カード選ぶと、すべてのカードがオープン、大吉、中吉、小吉とカードに表示され順に、五ポイント、四ポイント、三ポイントがもらえる。一日一回運勢を占いながらポイントがもらえるゲームだ。小さな子供に大人気! 


 清水はこの日大吉だった。なにかいいことあるのかなと上気分だ。


 野菜や卵や牛乳や豚肉などを無造作に籠に入れる。私的にホットケーキーミックスとバナナと二割引のシールが貼ってある千円の寿司を入れる。バナナケーキを作るためだ。寿司は個人的に食べたいためだ。


 実は清水はお菓子作りが趣味だ。清水には二つ離れた妹がいてバレンタインデーや友達の誕生日のたびお菓子を作る妹と一緒によくお菓子を作っていくうちにはまっていったのである。


 買い物をしてると店長に出会う。


「おっ! 清水じゃないか! 俺の変わりに働きに来てくれたのか?」

「おつかいですよ! おつかい!」

「偉いじゃねえか! 偉いからその二割の寿司、半額にしてやるよ」


 と言って寿司に半額のシールを貼ってくれた店長。スーパーで働く従業員特権ってやつだろう。間違いない。


 店長にお礼を言ってレジへいくと、金髪ツインテールのつぐみさんと黒髪ポニーテールの海野さんの姿が見える。つぐみさんに会えるなんて今日の運勢はやっぱり大吉みたいだ。


 つぐみさんのレジに行きたかったが他のお客さんがいたので海野さんのレジへ行くことに


「いらっしゃいませー あれ? 清水くんじゃん なにおつかい?」

「そうなんですよ、それで店長が偉いからって寿司半額にしてくれました」

「やったじゃん!」 

「ありゃ! 清水くんホットケーキミックス買ってるけどホットケーキ好きなの?」

「いや、バナナケーキ作ろうと思って買いました」

「なに! 自分で作るの? すごいじゃん!」


 海野さんが仰天している。この人は結構テンションが高い。


「チーズケーキ食べたいな」

「え?」

「バナナケーキはやめてチーズケーキ作って私に持ってきて」


「……いつですか」

「今日がいい! 今日食べたい!」


 一度言うと止まらない海野さんは結構わがままだ。


「……わかりました。ちょっとお会計待っててください」


 清水は追加でクリームチーズと生クリームを買うのであった。


 帰宅し清水は夕飯を作る母の隣で必死にチーズケーキを作る。


「えーと……クリームチーズ二百グラムに砂糖六十グラムに薄力粉二十五グラムに卵二個に生クリーム百五十ミリリットルにレモン汁大さじ二杯」


「なになに? ボールにクリームチーズと砂糖を入れ、泡立て器でよく練ってなめらかにし、薄力粉、卵、生クリーム、レモン汁を順に加えてその都度しっかり混ぜ合わせます。結構簡単だな」


「あとは百八十度に熱したオーブンで四十分焼くだけ!」


 四十分後、チーズケーキの焼ける良い匂いに釣られてか妹がやって来る。


兄者あにじゃ! なに作ったの?」

「チーズケーキ」

「食べていいの?」

「人にあげるから一切れだけな」

「いっただきま~す……めっちゃうま! 兄者やっぱお菓子作りの天才だわ!」

「ケーキなんて誰が作っても同じだろ、ただ分量量ってって焼くだけだし」

「いやいや兄者! 作る人の愛情が味を左右するんだよ」


 妹が熱心に力説する。


「で? 誰にあげるの?」

「シスターには関係ないだろ」

「つぐみさんでしょ」

「!!!!!!!!」


 なぜか妹がつぐみさんのことを知っていた。なぜだ、なぜだ。


「なぜつぐみさんのことを知っている?」


 清水が妹を睨む。


「この間兄者が昼寝してるとき寝言で、つぐみさん、つぐみさんって幸せそうに呟いてるの見たの」


「そんなこといってたのかい俺!」

「好きな子にケーキのプレゼントなんてやるね! 流石兄者!」

「いや、今回はバイトの先輩に頼まれて……」

「つぐみさんにはあげないの?」


 言われてみれば確かに海野さんだけに渡すんじゃなくてつぐみさんにも渡すべきじゃないのか? と思う清水。


「で、つぐみさんとはどういう関係なの?」

「バイト仲間……」

「いつ告白するの?」


 妹が清水にちょっかいを入れる


「知らん! 知らん! ちゃかすな!」


「兄者、女の子はね、例え好きじゃない人から手作りケーキもらってもうれしがるもんだよ、生理的に無理なやつじゃないかぎり、だから兄者は自信持って渡してきな!」


「そうなの?」

「そういうもんよ、そういうこと積み重ねで女の子はいつの間にか落ちるもんなんよ」

「シスターわかった。渡すよ」

「そうこなくっちゃ! がんばりな兄者!」

「おう! サンキュー! シスター!」


 シスター……妹の押しもありチーズケーキを二人分に分け再びYOマートへ。


「海野さん作ってきましたよ、チーズケーキ」

「ホントに作ってきてくれたんだ! ありがとう!」


 海野さんが驚愕しながら喜ぶ。とりあえず一安心。今度はつぐみさんに渡す番だ。


「つぐみさん、こんばんは」

「あっ! 清水さんこんばんは、どうしたんですか?」

「海野さんがチーズケーキ食べたいって言うもんですから、作ってきました……せっかくなのでつぐみさんの分も作ってきました! どうぞ!」


「私チーズケーキ嫌いなんです。だから入りません。」


 きっぱり断るつぐみさん。


「そ、そうなんですか……じゃあ猫の餌にでもしてください」

「家、猫なんかいないですし、お返ししますよ」


「わかりました……」


 呆然と帰宅。


「兄者! お帰り! どうだった渡せた?」

「つぐみさんチーズケーキ嫌いなんだって……これシスターにやるよ」

「そうなのか……でもうまいぞこのチーズケーキ、兄者」






「泣くな兄者……」







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