第29話最後の夜

 青は、物陰に隠れていた。

 

部屋から出た左目を青は追いかけたが、彼はすぐに他の吸血鬼と合流してしまった。足の潰れた吸血鬼だったが、その吸血鬼は左目の血を飲んで回復した。


 青は隠れて、その光景を見ていた。


 吸血鬼は、強そうだった。


 青よりもはるかに年を取った吸血鬼のようで、青が出て行ったらすぐに殺されていたであろう。だから、青は左目と彼が助けた吸血鬼を見逃した。


 紫の王は、彼らが去ったあとにやってきた。


「ああ、もったいない」


 紫の王は、吸血鬼が零した血を掬い上げて喉を潤す。


「これが、いくらかボクの寿命を延ばしてくれるといいんだけど……」


「紫の王――」


 青は、血を飲む紫の王に駆け寄った。


 紫の王は、青に向って微笑む。


「君、左目を逃がしたね」


 王の言葉に、青はどきりとする。


 なぜ、そんなことが知られているのだろうか。


「コレだけの出血量なのに、明知はすぐに回復した。血を摂取したとしか思えな

い。そして、ここにいる人間は一人だけだ」

 

君が見逃しただろう、と紫の王は青を責めた。


「す……すみません。でも、あの吸血鬼は俺より年上で――」


 きっと、強かった。


 出て行けば、殺されていた。


 青は、そう告げる。


「うん。そうだね、君の血ももらうことにするよ」


 紫の王は、青に手をかける。


 この血が、少しでも時分の寿命を延ばしてくれることを信じて。


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