第11話出会い

曖昧な表情を浮かべながらエルドとアルトがアーティスを間に廊下を歩む。

「・・・まさかアーティスが負けるなんてな〜。でも、ほら、スキル使ってなかったし仕方ねぇよな」

と、足音だけが聞こえる3人の空気に気まずさを感じてエルドがアルトに同意を求める様に顔を向ける。

「あ〜・・・。うん、そうだな、まぁ、アーティスがスキルを使えば余裕だった・・・」

「違う」

間髪入れずにアーティスがアルトの言葉を遮る。

「スキルを使ってなかったのは相手も一緒だ。いや、僕はスキルで剣を出してたんだ。・・・・負けだ」

顔を歪めて拳を強く握る。

負けた。

今まで負けた事などなかった自分が始めて味わった敗北。

その事実が余計に虚無感と脱力感を混ぜた様な混沌とした気持ちが心を支配する。

「・・・」

エルドが心配そうにアーティスを伺い、はぁっと大きくため息をつく。

「俺とエルドは先に寮に戻るな。お前も落ち着いたら寮の食堂に来いよ」

そう言いながら無理やりアルトの肩に手を回して連れて行く。

「え、えぇえ?!」

アルトはいまいちわからないと言った様子で連れて行かれたが、これもエルドの気遣いだろう。

余計に宥めたりするよりは1人にした方が感情も治るし考えも纏まる。

それを少なからず察したアーティスは

「ごめん、ありがと」

と、立ち去る2人に咳をするみたいに礼を言い2人の背中を見送った。


奢りすぎていた。

過信しすぎていた。

「くそッ!」

国内最大のスキル育成小中高一貫のエレベーター式の学院。クローウェスト学園。現在その中等部一年の中でも才のあるものと聞かれれば、彼の闘いぶりを見た生徒は皆口々に

「アーティス・ハーティがずば抜けている」

と、答えるであろう。

それは確信でも過信でも無い。

事実故、当人であるアーティスはいつもの余裕の笑みを失い、歪んだ顔で憎々しく学園の翡翠の壁を力任せに蹴る。

彼が自らのスキルに確信を持てたのはアーティスが初等部の頃に中等部の先輩3人を刹那の如く速さで、まさに文字通り瞬殺をした日からである。

当時は自分の力に高揚感を覚えた。

だが、今持っているのは劣等感と後悔だ。

友人を危険な目に合わせて、そのくせノコノコと負けてアルトやエルドに宥めて貰うほどだ。

情けない気持ちで穴があったら入りたい。

「僕が慢心したせいで!エルドとアルトを!危険に・・・晒してしまった」

体中の魔力を手に集中させ、漆黒の剣を何十本も虚空へ創りだす。

それは、重力へ逆らわずグサグサと地面へ突き刺さる。

これだけ剣を作る力があっても、届かない事があるのだと、アーティスは心を落ち着かせるべく深く深呼吸をする。

そして一気に力を振り絞って近くにあった木をダルマ落としの様にスパスパと斬る。

そして、拳を握りしめて誓う。

「オリヴィエ先輩に勝つまで、もう絶対に負けない」

時間差でドスドスと重たい音を立てて地に落ちる木を背にし、アーティスがその場を立ち去ろうとした時だった。

「な、何やってるんですか?!」

と、女子の声が後ろから聴こえハッとアーティスは後ろを振り向く。

アーティスがいきなり振り向いた事に驚いたのかビクッと仰天し木の影に身を隠す少女がいた。

「誰だよ。お前・・・」

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