第5話選択と怒りと誓い

「わざわざ移動を余儀なくしてしまい申し訳無いです。要件というのは先日の実技授業での事についてです。」

広い無機質な壁の部屋で、畳2枚ほどのこれまた無機質な真っ白のテーブルでアーティスの向かい側でオリヴィエが真剣な表情で言う。

「あー、あれですか。流石にやり過ぎてましたよね〜」

と、ニヘラと笑って答える。

悪気は一切無い。

「いや、やり過ぎというよりはわからないのです。審判を務めていた先生方も見ていた生徒達も、あなたがどうやってあの無数の剣を一瞬で玉砕したのか。先生方に聞いた話では、スキルを使っていたと聞きましたが、一瞬で何十本もの剣を破壊するスキル・・・その保持者を我々は見過ごせません」

どうやらアーティストのスキルの異常さが教師の間で広まり、中等部主席の地位を持つ彼女の耳に伝わったらしい。

なんでも、中等部主席となると初等部の特別戦闘訓練顧問としての役割もあるそうで、初等部と中等部の教師会議の際に聞いたらしい。

「はぁ、確かに僕は自分の力が異常って事は理解してますが・・・」

と、アーティスは少しバツの悪そうな顔で言う。

それは、この学校の特進クラス、所謂特等生になってこの学校の為に尽くさないかと提案されている事を察してだ。

現高等部のアイネ・クラネスという女子生徒が万物全てを癒す力を持っており、傷ついた物でも修復する『セリフォード』というスキルを保有しており、その能力の万能性と利便性の異常さに気づいた学校側から推薦で特等生となったらしい。

特等生とは言わば学校の顔であり、他の在校生が長期休暇の際でも他校へ出向いたりしなければいけない。

そして、何より特等生で卒業すれば必ず国家政府の中心の役職に就くらしい。

それは、他国への進出を防ごうとする国から学校へ対する絶対事項である。

アーティス以外の人間からすれば将来が約束されたものであり、絶対的な地位を手に入れられる唯一のチャンスであろう。

そのチャンスを蹴るもの等いないだろう。唯一アーティス・ハーティを除いては。

「どうでしょうか。是非ともこの学校で特等生という立ち位置を手にし安定した将来を約束しませんか?」

オリヴィエが優しい表情で、まるで赤子を宥めるかの表情で手を差し出す。

手を差し出されたアーティスの答えはとうに決まっていた。

「謹んで・・・お断り申し上げます・・・オリヴィエ・アーツ・クルード先輩」

胸に手を添えて会釈する。

だが、これで良かったのかと表情を歪める。

「そうか・・・まぁ、そう言うと思いましたよ。では、これから理事長に報告があるので、先に失礼します」

と、頭を下げ会議室を後にした。

部屋から出て行く際のオリヴィエの表情は少し険しく、拳をギリギリと握り締めていた。

2畳程のテーブルがいくつも並んだ無機質な空間でアーティストは一人溜息を漏らす。

もし、自分がオリヴィエの手を握っていたら将来は約束され、もしかするとオリヴィエとも親しき仲になっていたかも知れない。

もし、もっと上手く断れれば・・・・彼女にあんな表情をさせずに済んだかも知れない。

様々な思考が脳裏を駆けるが後の祭りだ。

そんな混沌とした脳に悲哀の表情を浮かべるアーティス。

一目惚れとは言えないが、一目見た時からずっと目に焼き付いた美しい少女。その少女に嫌われてしまったかも知れないという気持ちを、深呼吸をし宥める。


「全ては願いの為に、全ては彼女の為・・・俺は・・・」


アーティス・ハーティ。

その少年の全てはかつて恋した少女の為に–––––––。

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