第6話血塗られた勇者の記憶
6年前–––––––––––
その日は雲一つ無い快晴。
幼い少年少女のはしゃぐ声が村中に広がり大人の村民もそれを見てほのぼのとした、その村にとっては何の変化も無い平和な日常であった。木こりが森に気を切りに行き、農家が畑でイモや野菜の種を植え、耕す。
本当に何の変哲も無い平和であった。
その平和は刹那響いた轟音によって閉ざされた––––––––––––。
轟音、否爆音が辺りに響き村中が騒然とする中で、黒い醜悪。残虐な生物。
それは突然現れ刹那の内に逃げ惑う者命乞いするもの全てを蹂躙し殺し尽くした。
その生物に慈悲は無く。その生物に感情は無い。
ただ『絶対悪』の名のもとに虐殺を繰り返し世界を混沌と血で染める。
–––––––––––––––『第29代目魔王』
人間という種族、否この世界全てに生きる生物は悉く彼の者に蹂躙される。
この業火と悲劇が繰り広げられる平和だった村も悲鳴さえ聞こえなくなり炎が立ち込めるゴウゴウといった音と木が焦げた匂いや人の血の匂いがするばかりで人工的な音といった観点で言うと静寂が広がっていた。
青々としていた空は火の色が映り真っ赤に染まり、真っ黒な煙が淡々と空に吸い込まれていく。
そんな静寂を二つの者が切り裂いた。
一つは歪な形をして、原型を留めない『魔王』の口らしき穴から出た金切り声の様な叫び声。
もう一つは、屍となった元人間の肉の山から飛び出してきた村民と思われる者の叫び声。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!スキル・・・『ヴォイド』!」
その村民が軽く飛躍し、『魔王』の上を飛び越える。
そして、スキルらしき右手に握りしめた黒の刃に赤いラインと文字が刻印された剣。
『魔王』もグチャグチャと不愉快な音を立てながら剣と思しき歪な刃を掲げる。
『魔王』自体が人間の数倍の大きさを誇るが、その魔王の剣は魔王の2倍の大きさを誇ろう。
それを向かって来る村民目掛け力任せに振り下ろす。
村民は体を捻じ曲げ避けるが、地面にあった死体を魔王の剣が押し潰し走り抜ける村民を一瞬の内に真っ赤に染めた。
––––––いくつもの、剣同士がぶつかる鋭い音と、魔王の叫びと血飛沫が、限りなく炎の勢いを強めより一層鼓膜を突き破るかの様な奇声と共にただ一人が立ち尽くし静寂が再度場を支配した。
もう火焔も朽ち、空が完全に黒に染まった。
男は顔にベットリとついた血を拭き取り、荒い息で肩を上下させながら剣を持ち死体の道を歩む。
そして、1人の少女の死体の前で膝をつく。
「う・・・うううぅ。ごめん、守れなくてごめん。約束を・・・守れなくてごめん」
その死体の少女の手を取り感嘆する。
あの優しかった温もりが、あの楽しかった日々が、一瞬で血に染まる。
「・・・約束。約束だ。俺はもう二度と大切な人を失わない、これから発現する『魔王』を全て殺し尽くす。そして、勇者になるよ。誰をも守れる絶対的な勇者に・・・。だから・・・君も見ていて、その場所で」
涙を拭い、死体に微笑みかける。
その瞳に曇りは無く。
純粋で真っ直ぐな憎しみと誓いだけが彼の全てを支配した。
それが、血塗られた勇者と、『第30代魔王』の誕生であった。
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