第3話その後忘れられる母からの手紙

実技授業は無事終了し、その後アーティスがクラスメイトから質問責めにあった事は言うまでもないだろう。

どうやって剣を破壊したとか、どんな無事スキルを使ったのか等アーティスがおおよそ予想していた通りのいくつか言われたが、

「そんなに知りたいならアーティスと戦えばいい。ただしプライドとメンタルをズタズタにされても知らねぇぜ」

と、エルドとアルトがクラスメイトとアーティスの間に割り込み一喝した。

すると、クラスメイトの殆どが教室の隅で凹んでいるイスタルを一瞥しヒソヒソと話しながら各自散布した。

エルドとアルトはイスタルを気の毒に思いながらも、どうしてイスタルは凹んでいるのかと聞いてくるアーティスに拳を向けるのであった。



まさかこれ程の力を持っているとは知らなかった。

と、茶色の髪の少年が苛立ちを隠せない表情で教科書と睨めっこしている。

イスタル・ホーンは初等部からその中距離に長けた『剣王』のスキルを駆使し当時のクラスでもそこそこの成績と立ち位置を納めていた。

そして、それは中等部になっても変わらないままだと思っていた。

第一回目の実技授業で自らの力を見せつけてやろうと思っていた。

だがイスタルのその考えは一瞬の内に瓦解した。

アーティス・ハーティ。奴はずっとエルドとアルトの下っ端などと考えて余裕ぶって良い子ちゃん装って油断させようとしたが全くの下策であったと今気づいても後の祭りだ。

そして、奴の最期の一言。

「良いスキルだ。」だと。

ふざけるな、とその時イスタルは心の中で舌打ちをし、屈辱的な思いに押しつぶされる。

こんなヘラヘラした奴に負けるなんて、と奥歯を噛み締めて睨みつけようとするが、鬱陶しい事に握手まで求めてくる。

どんな相手であれ、戦いの後は握手を交わす。そんな規則がなければアーティスの腕を振りはたき走り去ってやりたかった。

この屈辱必ず晴らしてやる。

そう心に誓い、復讐に火を灯したイスタルであった。



「う〜ん。何故だ?」

中等部の男子寮、その2階の自室にて一人唸るアーティス。


机に頬杖をつき眉間に皺を寄せて思案する。

実技授業の後から異様にイスタルに睨まれている気がした。

授業中、業間、そして学校から寮までの道のりでさえも悪寒が走るほどの視線であった。

理由を知らずに突っかかってイスタルを逆なでしてはいけないと無視したがこれがもし長くなればアーティスも耐えられないだろう。

「実技の時にボコボコにしすぎたか?いや、でも・・・手加減したし・・・」

と、頭を悩ませていた時ドアからコンコンという軽快な音が聞こえてきてハッと目線をドアに向ける。

「アティ〜〜。お母様からお手紙が届いていますよ〜」

若い女性の声が聞こえて、アーティスが慌ててドアに駆け寄り開ける。

ドアの前には水晶の様に水色に透けた髪の女性が立っていた。

「あぁ、ありがとうございますノイルさん」

と、軽く会釈して手紙を受け取る。

アーティスにノイルと呼ばれた女性はこの学校の郵便係の様なもので、学校に届けられた生徒宛ての手紙等を管理し、生徒に届けている事務員だ。

アーティスの母の妹の娘、つまりはいとこの関係だ。その為アーティスとノイルはかなり仲が良い。

「うん?どうしたのアティ?」

と、しゃがみこんでアーティスと目線を合わせ、いつもよりやや落ち込み気味のアーティスに問いかける。

「あ、うん。実はね」

イスタルの件を話すとノイルは仰天していた。

「うわぁ!それ絶対報復されるよ!ヤバイよ!怖いよ!しかも、話を聞く限りその子のスキルって物理召喚系統でしょ?暗殺向きだから尚更気をつけないと!」

ノイルが冷や汗をかきながら言う。

スキルには、剣などの武器を召喚したりする《物理召喚型》

魔物などの生物を召喚する《生物召喚型》

自分の身体を強化したりする《変身型》

水や火、土や風を操ったり、時空を歪めたりと自然を操作したりする《超能力型》

精神汚染や洗脳、猛毒や毒ガス等間接的に攻撃する《間接攻撃型》などがある。

様々なスキルの型がある中でイスタルの使用する剣を召喚する等といった《物理召喚型》は瞬時に攻撃体制に入れて、その上武器一つ召喚するのに糧となる魔力が少ない為バランスが取れている。

その為、暗殺家業のものは《物理召喚型》が多く。

《物理召喚型》イコール暗殺といった考え方が強い。

その事があるから、正面から向かっての戦いで勝てても闇夜に紛れて仕掛けられればアーティスでも相当不利な戦いになるだろう。

「そうですね・・・。明日本人にドーピングしてスキル強化していたとでも言って教師にチクって貰うのも一つですね。そうすればイスタルとの再戦になり、わざと負ければいいだけだ」

と、唸りながら苦渋の答えを出す。

そんなアーティスの答えにノイルが声を荒げる。

「ダメ!!!そんな事ダメだよ!アティ、下手したら退学だよ?!せっかくこの学校に入学したのにそんな事許さないからね!」

グッと顔を近づけてノイルが言うのに対し、アーティスはノイルの女性特有のいい匂いが鼻腔を擽りそれどころでは無い。

「わ、分かってますよ。ジョークですよ。ジョーク。当分は様子見するんで大丈夫です!」

と、機能が停止した頭で適当に返事する。

「何かあったら言ってよね」

と、言い残し次の手紙を届けるという事でノイルは手を振って寮の廊下を歩いていった。

ノイルを見送った後で手にした手紙に視線を向ける。

「また・・・明日読むか」

そう言うと手紙を机の上へ放り投げベットに飛び込んだ。

そして、深く深呼吸をしゆっくりと意識を閉じるアーティスであった。

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