第2話猫を被った生徒は瞬殺される
入学してから数週間が過ぎ、いよいよ中等部初とはる実技授業––––––––スキルを使用した本格的な戦闘授業–––––––––が行われる事となった。
クラス単体で行われる為、始業式の際と比べてグラウンドがだだっ広く思えた。
緊張、不安、期待エトセトラエトセトラ・・・様々な表情がクラスメイトから伺える様にアーティスは一人余裕の表情でにんまりと笑みを浮かべていた。
「アティ、頼むから俺と当たったら手加減してくれよ」
「あ、俺の時も頼む。出来るだけ軽めの一撃で頼むぞ」
と、後ろからエルドとアルトが喋りかけてくる。
「あ、あぁ」
アーティスはまさか2人にこんな事を言われるとは思ってもいなかった。
いつもは仲のいい3人だが、戦闘となるとずば抜けてアーティスが強い。それはやはりスキルによる為でもあるがアーティスの基礎能力が高いといった点も畏怖される理由である。
だがそれだけではない。
初等部の時に中等部の先輩3人にアーティスが因縁をつけられ、それを止めようとしたエルドが酷い仕打ちを受けた。
それに怒ったアーティスがその3人の四肢を完膚なきまでにへし折った。
その際に問題になったがエルドの親が国でも有数の権力者であった為すぐにその問題は収められた。
そんな事があってからは当事者のエルドと中等部3人はそれ以来アーティスを畏怖している。
アルトもそれをエルドから聞いて知っているが実技授業でしかアーティスの力を見た事がない為もしもの為の保険として言っただけに過ぎないようだ。
「よーし、お前らー。今から呼んだ者同士で組みを作れー。それが今回の相手となる」
そうガーバルドがいい、次々と生徒の名前を呼んでいく。
「おし、次だ。アーティス・ハーティとイスタル・ホーン!」
そう呼ばれてアーティスと、イスタルと呼ばれたあまり目立たない茶髪の少年が前に出た。
「よろしく」
と、アーティスは手を差し出す。
「うん。よろしくね」
と、軽く握手して戦いの火蓋は切って落とされた。
先程の表情とは打って変わりイスタルの表情が引き締まる。
「スキル『グラディオ』」
イスタルがボソリと呟き一瞬淡い光に包まれる。
次の瞬間いくつもの剣がイスタルを中心に虚空を引き裂き顕現する。
それに習うようにアーティスもスキルを発動する。
「スキル発動––––––」
アーティスの体に淡い光の帯がいくつも絡まり、包み込む。
次の瞬間戦慄が走る。
歪な音を立てイスタルの召喚した無数の剣が砕け散ったのだ。
当の本人であるイスタルさえも何が起こったのか理解できずに目を白黒させている。
「そ、そこまで!アーティス・ハーティの勝利とする!」
と、ワンテンポずれて教師が止める。
今回の実技授業はあくまで個人の結果を図ることを主体としたものの為、結果が一目瞭然となる試合は怪我人が出る前に止められるのである。
実際子供の怪我が原因で面倒ごとを起こされるのを避けている教師ほど決着の判断を早くするのでこの形式は生徒からすれば実力を十分に発揮できないものとして良く思っていない生徒も多い。
だが今回は違う。
イスタルがスキルを発動してからアーティスがスキルを発動するまでの間に攻撃しようと思えばできた。
授業のルールで先制攻撃は制限されていない。
今回の敗因はイスタルのフェアな精神と言っても過言ではないだろう。
しかしそれは言い訳でしかない。
アーティスもスキルを発動しようと思えばイスタルより早く発動し、イスタルの身体を剣の様にする事も容易かっただろう。
その為刹那の内に剣を破壊された時点で決着はついていただろう。
イスタル自身もそれを理解している。
自分が圧倒的敗北したからこそ、漠然と勝者の前に佇む事しか出来ない。
「いいスキルだ。いきなりこられたら対処できなかったよ」
と、言いアーティスが先程までの、一瞬ではあったが確かに感じた戦いのプレッシャーと勝利への歓喜に頬を緩ませながら手を差し出した。
イスタルはそれが嫌味にも慰めにも聞こえた。
その差し出された手に戸惑いと劣等感を覚えたが無言でその手を握りしめた。
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