復讐心を殺すために

不可式ヨハネ

第1話始まりはありきたりな日常から

スキル––––––––––––。

それはこの世界全て者が等しく持つ唯一無二の特別な力であり、変えられない運命である。



魔王––––––––––––。

発生起源不明。発生内容不明。

現時点で過去、約28体の魔王が出現しどれにおいても多くの死者を出し討伐を出し遂げている。

そして、どの魔王に於いても共通している事は『絶対悪』という事である。

理由は何にせよこの世界への反感。叛逆。復讐。その全ての要素から魔王という生物は生まれる。




「––––と、こうして勇者様が魔王を倒したのでした。お終い」

ランプの火に照らされた薄闇で年期の入った本をパタリと閉じる。

「ゆーしゃさまってかっこいいね!ぼくもいつか、ゆーしゃさまみたいにつよくなっておとうさんとおかあさんを守るんだ!」

布団を深々と被り笑顔で4歳のアーティス・ハーティは満遍の笑みで母であるタルティ・ハーティに告げる。

「そうね。アティが強くなったらお母さんとお父さん、助けて貰っちゃおうかしら!」

と、そのアーティスに微笑みながら頭を優しく撫でて寝かしつけた。

少ししてスゥスゥと寝音が聴こえてきたのを確認すると、そっとランプの火を消し部屋を後にした。


–––8年後。


アーティスは12歳になった。

今日はアーティスの通う国立クローウェスト学園の始業式である。

まず7〜11歳までが初等部。

12〜15歳が中等部。

16〜19歳までが高等部となっており今日からアーティスは中等部生徒。所謂、中学生という事だ。

「それでは、生徒主席。オリヴィエ・アーツ・クルードさんより一言です。」

満遍の拍手と共に金髪を靡かせ一人の美しい少女が舞台で全中等部生徒にその姿を晒す。

「皆さん。本日は多忙な中で我々の始業の式の為に御時間を割いて頂いたこと、初めに感謝申し上げます」

と、オリヴィエは言葉続けていく。

そのエメラルドの瞳は曇り一つなくまっすぐとしていて、何処と無く威厳を感じさせている。

アーティスはそんな少女に目を奪われただ美しいと、そう思った。


「では、これにて終わりとさせて頂きます」

オリヴィエが深々とお辞儀をして舞台の階段を降りていく頃にはアーティスはオリヴィエの一つ一つの姿に胸打たれていた。

「おう、アティ。お前もやっぱりオリヴィエ先輩狙いか?」

と、後ろにいる赤茶色の毛のエルド・レッドが背中を指で突いて囁いてくる。

「ち、違げーよ!確かに綺麗だけど、僕なんかじゃ釣り合わないよ」

と、咄嗟に答えるが心にも思っていない事だ。

「ふ〜ん。じゃあ俺が告っちゃおうかなぁ〜」

などと、アーティスの隣にいる白髪碧眼の美少年アルト・クレーバーが悪戯っぽくエルドに便乗して言う。

「だ、ダメだよ!そんなの・・・」

と、言いかけたところでハッとする。

二人ともしてやったりといった様子でニヤニヤと笑っている。

「嘘下手だな〜」

「冗談に決まってるだろ!」

と、笑いを堪えて言うのに頬を染めて俯く事しか出来ないアーティスであった。

その後、すぐに各教室へ分かれ担任の挨拶だ。

自分のネームプレートがある席へ座ると、隣にエルド、そしてエルドの右斜め後ろの席にアルトが着いた。

「おう、思ったより近いな!」

「うん!よかったね!」

と、嬉しそうにエルド、アルト、アーティスは笑い合った。

この3人は初等部2年(7歳)の頃から同じクラスで、それまで友達の少なかったアーティスにエルドがフレンドリーに接してから仲良くなった。

アルトはエルドの幼馴染で、初等部の頃からその美しい容姿で女子の目を独占している。

今も、クラスに入ってきた女子の大半はアルトの方をチラチラ見たり、頬を赤く染めたりしている。

そして、アルト、エルドと談笑しているうちに担任らしいガタイのいい男からが入ってくる。

赤い髪はビッチリと固められており、その表情はとてもやる気に満ち溢れているといった表現であった。

教室に入るなり、教卓をバンッと大袈裟に叩いて注目を浴びる。

「俺が今日からお前らの担任になるガーバルド・イグナッズだ!よろしく!」

そうして簡単な挨拶をして、次はクラスメイトとの自己紹介に移る。

アーティスはめんどくさいなと思いながらも名前と好きな食べ物を言い着席した。

好きな食べ物を言ったのは最初の人がガーバルドに聞かれて答えたからそういう流れになった。

ガーバルドの策略どうり、みんな好きな食べ物を言い次々に自己紹介を終えて座っていく。

「スキルは言わないんだな」

と、後ろからエルドが喋りかけてくる。

初等部では1年の頃から自己紹介の中に自分のスキルは必須であったが、中等部からはお互いのスキルを知らない上で、実技の授業の際にどの様に対処するかが求められるらしい。その為に中等部からは自分のスキルに関しては他言無用だ。

もしも他人に言ってしまった場合、実技の試験では不利になってしまい成績が下がってしまう。

そう始業式の際に学年主任が話していたが、どうやらエルドとアルトは聞いていなかったらしい。

エルドの後ろでアルトもその話を聞き目なるほど、といった様子で目を丸くしている。

「だけど、俺ら3人は初等部から同じでお互いのスキル知ってるぜ?それに、ほら周りを見てみろよ。他にも3年、4年の時に同じクラスだった奴らもいるぞ」

と、クラス中を一瞥しながらアルトが言う。

「お前ら・・・」

と、アーティスはつい呆れた声が出てしまう。

アルトの疑問についても始業式の際に学年主任が話していた。

お互いのスキルを知る者同士は、自らも知る者同士で、敵の弱点を上手く付いたり新たにその弱点を克服したりと、お互いを高め合って行ってもらうという理由の元で、初等部の際に同じクラスだった者も再度クラスが被ると説明していたが、2人はどうやら式の際まったく話を聞いていなかったらしい。

「お前らなぁ・・・先生の話はちゃんと聞けよ!」

と、ジト目で二人を見る。

「がっはっは。友人に説教はいいがお前も俺の話を聞いておけよー」

と、教卓の方からガーバルドの野太い声が聞こえ、ウッと言葉を詰まらせる。

顔を真っ赤にし素直に教卓の方へ体を向けて俯くアーティスに後ろからエルドとアルトが必死に笑いを堪えながら冷やかしてきて、二人もガーバルドに注意を受ける。

そしてクラスからは笑いが起こる。

もうこの時点でアーティス、エルド、アルトの3人のクラスでの立ち位置は決まったであろう。

3人とも顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。


そして数週間後から『地味マヌケ・赤頭バカ・イケメンアホ』3人揃って悪ガキトリオと、クラスで揶揄されるたのはまた別の話である。

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