第28話-化物

「畜生」


 楠木は苛立ちに任せ、ショッピングセンターのテナントに銃弾をばらまく。

 近藤はそれを傍観し、敵襲に備え警戒している。楠木が自分に照準を向けたことも気づいても怒りはしない。合理的な判断であると納得していた。

 二人は雅の攻撃を受けて生き残っていた。

 

「あの化け物がいたのは想定外だった。TEを二体も相手にするのは不利だった」


 もう一度畜生、と怒鳴って楠木は大きく息を吐く。


「金原梨子がTEだとわかっていたから、アイツの対策のために瓜生謙二郎を生け捕りにしたっていうのに。あの男のせいで」


 楠木は過去のゲームの参加経験からTEの危険性を熟知していた。

 だからこそ、慎重に対処しようとしていたのだ。


「小松雅か」

「ああ、同類としてどう思う?」

「やはり、俺がTEだと見抜いて仲間に誘ったのか」

「TEはそこまで関係ない。純粋に近藤さんの力を見込んだだけさ。まあ、アイツに対抗するためにも武器は全部教えていただきたいね」


 近藤はしばし逡巡して、ゆっくり口を開いた。


「俺のTEは硬化だ。至近距離でなければ数分だけなら銃弾をも防げる」

「だから階段から転げ落ちても平気だったわけか」

「そういうお前はどうなんだ?」

「俺はTEじゃない。普通の人間だ。運よく足から着地できた。それで、あの化け物の評価だ」

「あれはTEなのか?」


 近藤の疑問に楠木は答えられない。二人ともTEという存在と何度も対峙した事があったが、あれほど規格外の存在は見たことがなかった。

 この二人の認識は正しかった。近藤はテロリストとして、楠木はゲーム参加者として数々のTEを屠ってきた経験がある。決して的外れな推測ではなかった。

 対象が悪かっただけなのだ。




 一方、雅たちはセーフゾーンで春人から襲われた時の話を聞き終えたところだった。

 突如、近藤が銃を向けてきて、それから逃げようとしている所に楠木が発砲してきたらしい。それにいち早く気づいた皐月が警告するも、春人と謙二郎は逃げ遅れたのだ。


「それで、僕は足をくじいちゃって、それを庇うために先に逃げれた謙二郎が出てきたんだ。その時に、楠木に撃たれて」


 その後は、梨子を誘いだす罠として利用されたということだろう。 

 梨子もあれから落ち着きを取り戻したようで、春人を責めるようなことは言わなかった。

 セーフゾーンはワンルームマンションの一室のような作りでベッドもシャワーもあり、食料も完備していた。

 当初の目的である休息は十分可能である。

 今後のエリア閉鎖は一階の閉鎖が六日目の七時。二階が十一時。三階が十五時、と四時間おきに閉鎖されていく。

 最終ステージの施設は五階建てで、雅たちは二階にいる。現在の時刻は六日目の二時なので、二階が閉鎖されるまで時間がある。一眠りはできるだろう。

 雅は白髪になったが、そこまで疲労があるわけでもなかった。ここにいる五人の中で一番元気がいいだろう。

 香歩と志郎は和人との戦い、梨子と春人は謙二郎の死で憔悴しきっている。

 それでも、全員、食事を取り、眠りに入る。まだ、戦わなければ生き残れないのだ、と理解していた。

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