第20話-提案

 マコトの話によると、トイレに行くと離れていった梨子が三十分経っても戻ってこないというのだ。

 それから二時間経った今、チームに別れ彼女の捜索を行っていた。

 しかし、それは一通のメールで終わりを告げることとなる。


 エキストラルールの追加という件名でそれは届いた。

 ルールは全部で二つあり、それをこれからのゲームで適応するといった内容だ。

 一つ目が、他人の端末でルールが見れるようになる。

 二つ目が、五時間前にエリアが封鎖される。

 というものだった。

 それとは別に、№5.相手を清算した場合。+20000。№6.他プレイヤーの殺害+15000

 というルールも送られてきた。

 これは、マップ内のルールが十五個発見されたからと記されていた。


 それらのメールを受け、近藤正彦はあることを思い出していた。

 日付はゲーム開始三日目まで遡る。

 近藤が探索していた時、ある気配を察知し、すぐさま銃を向けた。

 

「誰だ?」

「流石、俺の目は確かだった」


 両手を挙げて楠木が木陰から出てくる。当然、近藤は銃を向けたままだ。


「俺は楠木多喜。近藤さんの懸念はもちろんだ。銃を下げなくていいから俺の話を聞いて欲しい。このゲームの真相を」

「分かった話せ」

 

 近藤は警戒したままだが、飄々とした様子で楠木が話し始めた。


「まず、俺はこのゲームに何度か参加したことがある。だからこそ、今回の異質さに気づいたのさ」

「異質さ、だと?」


 近藤が聞き返したことにより、楠木は笑みを浮かべた。興味を持たれなければ交渉にならないということを知っているのだ。このゲームで何度も生存してきたのだから。


「まず、今回はパーソナルが軽すぎる。近藤さんの条件、プレイヤーナンバー16の生存。死亡した場合、-10000。今回にしては厳しいけど、これでもいつものゲームならラッキーな条件だね」


 そこであえて楠木は黙った。たった今述べた条件は間違いなく近藤のルールだ。自分しか知りえぬ情報を何故、見ず知らずの男が知っているのか。

 が、そこをペラペラと自分から話さない。この疑念を少しでも近藤に抱かせることが、話を円滑に進めると楠木は確信している。


「どうやって俺のルールを知ったのかを言ってから、続きを話せ」

「オーケー。異質さに気づいたのは一人プレイヤーを脅した時。近藤さんのルールを見れたのはアプリの効果さ。そこらじゅうにある監視カメラを確認できるってやつ。その二つでいつものゲームと比較してあまりにも個別ルールがぬるいことに気づいた」


 近藤が黙っていると、楠木は急に声を上げた。


「そうそう、最初にいつものゲームの流れを知ってもらう必要があるな。通常ならパーソナル条件が難しいから、共通ルールを仲間で探す。しかし、その希望も殺し合いを促進させるものでしかない。全員は助からない。だから、仲間で、時には恋人や家族が殺し合う。誰かのため、自分のためなら全てを犠牲にするという筋書さ。そのドラマチックな部分を観客様は求めてるわけ。それがどうだい?」

「だが、今回は違うと?」


 その通り、と顔だけで主張する。頑なに手は挙げたままだ。

 が、既にこの場の主導権は楠木が握っていた。


「つまり、この場で構築した関係や実生活で育んだ関係を無理やりルールで壊したり、もしくはその大切な人のために、他の仲間を裏切らせる、という風になるはずなんだ。奴らは初期の配置やルールでプレイヤーをコントロールして物語を演出する。今回はそれが限りなく薄い。それでも客が楽しめる展開が起こるように設計されているってことさ」「憶測ではあるが、そう考えるのが自然だな」


 話がわかるね、と楠木は頬を緩ませる。

 そう、彼は拳銃を突きつけられていても弛緩しきっていた。

 近藤はそのことを感じ取っていたから、話を信用していた。

 楠木の見立てが正しかったのだ。


「というわけで、これからは経験者の俺にも予測できない。だから、いつもと方針を変えて仲間を募集することにしたんだ」

「それでは理由が弱くないか?」

「わかりましたよ。言いますよ。予測できないのもあるが、どうも敵が強そうなんでね」

「敵?」

「あんたらの仲間さんに俺と同じ経験者がいるはずだぜ。そいつが上手くコントロールしているからあの結束ができているんだろうよ。すげえ狸だぜ。予測できない流れとその明確な敵に対抗するには近藤さんのような強いやつが必要なのさ」


 楠木が饒舌に語る推論に近藤はYESともNOとも言えなかった。彼はしっかり考えた末、その答えを出したのだ。

 この話にある程度の根拠はあっても、証明はできていない。故に、答えないことを選択した。


「あんたが俺をすぐ信用しないのはわかっている。だから、これから俺の言う通りゲームが進んだら、仲間になるっていうの考えてみてくれ。それで乗り気なら――」


 事実、楠木の言った通り、運営からルールの追加、罪の一覧の公開、エリアの分断が始まった。

 彼の話を信じざるを得ない状況だった。

 そして近藤は楠木に対して、また楠木は近藤に対して、同じ認識を持っていた。

 人を殺すことに躊躇いがない人間だと。

 故に、仲間を裏切るといった罪悪感は限りなく薄い。近藤が優先するのは自分の命だ。

 それを楠木はわかっていたからリスクを冒して提案してきたのだろう。

 近藤の解は出ている。

 彼は仲間だった人々に銃を向けた。



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