第18話-男湯
女性たちのシャワーが済み雅が皆がいるところに戻ると、福田が雅に駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「何が?」
「はあ? 雅さん、あんたそれでも男かよ。あ、わかったぜ。意地悪な人だなあ。もしかしてドS?」
福田はそう言って、わかりましたよ、と笑う。そして雅に密着し、耳元でこう囁いた。
「覗いた感想に決まってるじゃないっすか」
覗いた前提で雅に聞いてくる福田。濡れた髪の女性らを見て下品に緩んだ彼の顔から、決して冗談などではないことはわかった。
「見てないし、しようとも考えなかったよ」
雅は福田から離れ、男性陣にシャワールームへ行こうと促した。
男性は数が多いので、半分は外で待機し、半分は中で待つことになった。
マコト、福田、楠木、近藤がまず入り、残りが外で雑談している。
「夏でもこの島がまだ涼しいからマシやんな。じゃないと学ランなんか着てられへん」
「瓜生の学校は制服が自由なんですね」
そう言った皐月はかなりしっかりと制服を着ていた。フィールドを練り歩いているので汚れはあるが、気品なようなものを感じる装いである。それに対し、謙二郎は学ランにTシャツと正規の制服とは言い難い恰好だった。
「せやで。だから制服じゃなくて、標準服って言うんや。私服OKやけど、選ぶんダルイし、大体標準服着てるで」
「僕の学校も服装自由だけど、夏はポロシャツだね。カッターシャツ着ないのはそっちの流行りなの?」
春人がよれたポロシャツをつまんで笑う。
「そんなことないなあ。夏はポロシャツも多いけど。俺はカッターシャツというか襟付きの服が苦手やねん」
学生トークになっているのを気遣ってか、謙二郎が雅さんはどうやった、と話を振ってきた。
「俺も謙二郎と同じだったよ。Tシャツ学ランはしてなかったけど。志郎の行く予定の中学校は?」
「多分、ポロシャツ。それにブレザーかな。公立の中学はだいたいこうだと思うけど」
それからも雑談は止まることなく盛り上がった。その最中に、皐月が雅を呼び出した。
少し距離を取るために待機場から歩いたが、その間に何の用かなどと訊く必要はなかった。
皐月はいきなり、雅に端末の画面を見せた。そこには彼の個別ルールである「端末を?台破壊する」が記されていた。?を示すように指を三本立てている。
「別に強制ではありません。信頼を勝ち得るための行動です」
「そういっても、見せなかったらこちらの信用は薄れるだろ」
「そうでしょうか?」
白々しい問答だったが、どちらも笑みを絶やさない。
「お前、なんか、雰囲気変わったな。俺も見せるよ」
雅の条件である「世界を救え」を見た皐月は口をだらしなく開け、しばし黙った。
「これは慎重になるわけだ。他に知っている人は?」
「いない。お前だけだ」
「意外ですね。樋口さんには見せているものだと」
プレイヤーの中では俯瞰的に観察できる人間である皐月に、そういう風に思われているというのは、第三者から見て明らかだということとなる。
なので、殊更に否定はせず、雅は曖昧な表情をした。自分だけでなく、他人も自分が香歩に特別な感情を抱いている、とわかるのだと自覚した。
「何のいたずらかそういうルールだ。ルールの変更はないらしいし、個別は難しいだろう」
「ですね。こちらも何かわかれば知らせます」
足音が聞こえてきたので、雅たちは会話を止めた。
「交代だ」
近藤が雅たちを呼びにきたようである。
シャワールームに入ると先に謙二郎と春人が入っていた。何故か、入ったはずの福田もいる。
濡れた前髪を後ろに流した状態で、じっとガラスの向こう側を注視していた。
「そっちの気でもあるんですか?」
皐月が冗談ではない語調で訊いた。
「ばっか、ちげえよ。あの三人の肉体美を見せつけられたから、普通の体を見たかったんだよ」
「近藤は見るからにわかるが、他の二人もそうなのか」
「ああ、マコトさんもすごかったから意外だぜ」
別に俺が貧相なわけじゃなかったな、と謙二郎と春人の裸体を見て満足した福田は外に出て行った。
謙二郎と春人の次は皐月と雅が入ることになった。
雅は自分の体を見て、少し感心した。鍛えていると、認識される肉体だったからだ。
皐月よりも雅のほうが早く出たので、待っていた志郎にシャンプーを渡そうと手を伸ばす。すると、志郎は腕で自分の顔を隠すようにした。
彼はそのまま硬直し、少しずつ腕をどけ、雅のシャンプーを受け取った。
「ありがとう」
志郎は礼を言い、服を着たままシャワールームに入った。扉が閉まったがすぐ開き、扉の隙間から脱いだ服を落とした。
「お年頃やなあ」
謙二郎の発言は的外れだと雅は思ったが、一々訂正しない。体に見られたくない痕でもあるのだろう。彼らは志郎が好戦的プレイヤーである和人の子である、と知らないのだから無理もないのだが。
皐月が上がりまた雑談をしていると、皆の端末の画面が一斉に点灯した。
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