第4話-規律
悲鳴が聞こえる。
複数人の悲鳴は雅にとって非常に耳に触る音だ。どうも落ち着かなくない。
ジリリ、ジリリと、また脳裏を掠めた。彼は思考をたしなめるために目を瞑り、スピーカーの音だけに集中する。
「いやはや、気の早い方もいたものです。私、こんなに早く清算を済ませるプレイヤーは初めて見ましたよ」
スピーカーからの声を聞き、次第に辺りは静かになっていった。
雑音のせいで聞き取りづらかったが、声は特に加工されてないように雅は感じた。しかし、声からでは相手を断定しにくい。男というのはわかるが、若いようにも老いているようにも思える不思議な声だった。
「さて、お待たせしました。このゲームについて説明をさせて頂きます。まず―――」
「少し待ってもらえますか。前提について確認したい」
説明を遮ったのはまだ自己紹介をしていない学生だった。春人とあまり変わらない小柄な体格で、はっきりとした顔立ちは美少年と言っていいだろう。
福田といいまたか、と雅は思った。
「質問を認めます。ただし私が答えるのは、ゲームの内容に関するものとします」
「ありがとうございます。これからの説明に嘘はないですね?」
説明会とやらを最初から信用していなかった雅も、聞いてみたい質問だった。
真剣にゲームをするなら、ルールは不可侵なものでないといけない。簡単にルールが変えられるゲームなど、ゲームとして成立すらしていないのだ。
「はい、もちろんです。ゲームマスターの私が断言します。ただ、証明できないのが残念ですがね」
どうやらゲームをやらせたいらしい。
これが向こうの目的というなら、賭け事に使われている可能性が高い、と雅は推理した。観戦するだけとなると時間を割いてでも見たいコンテンツとは思えないから、という推測からきているのだが、どうも雅は自分の推理が間違えているとは思えなかった。
「ええ、本当に残念です。質問は以上です」
口元に微笑を漂わせながら学生は端末を触り出した。
あの肉片を見て、笑っていられるのは異常だろう。もしかするとこのゲームの参加者は、どこか壊れている者が集められているのかもしれない。
自分を含めて、と雅は自分の邪推に笑ってしまう。根暗な野郎だ。
「質問に関しましては最後にまとめて聞きますので、ご了承のほどお願いします」
誰も声をあげず、黙って聞いている。
先ほどの学生の質問で問題意識が高まったのか、既に悲鳴を上げているものはいない。ただ、全員が話を聞いている訳ではなく、ぐったりと俯いている人もいる。まだ幼い子供には辛いのだろう。
「皆さまがこれから行っていくゲームは、罪人を審判するためのゲームです。よって、罪人であるプレイヤーの皆さま一人一人に、犯した罪に相応しい点数がついています。ゲームのクリア方法は先ほどのプレイヤーが行った清算を済ませ、その時の点数がプラス値ならゲームクリア、マイナスならゲームオーバーという簡潔なものです。他にクリアの方法はありません。ショッピングセンターがあるので勘違いされたかもしれませんが、ここは孤島です。考えている方はいないと思いますが脱出はできません」
罪人。犯した罪。その語句を聞いて、不思議そうな顔をしている雅だけだった。
誰一人として、異議を唱えるものはいなかった。
「点数の増減はルールによって定められています。ルールには個人と共通の二種類あり、共通ルールはプレイヤー全員に適用されるものや、一部プレイヤーのみというものなど様々な種類があります。ルールはフィールドに点在しているのでそれを探し、自分の点数がプラス値になるように行動してください」
自己紹介の話を聞くだけでも、一日二日では探索できない大きさだ、と推測できる。森、コンクリートと壁のビル、ショッピングセンター、これだけの範囲からルールを探しだすのは骨が折れるだろう。
雅はゲームがどう盛り上がるか、で考えを進める。ゲーム性を考えるのならば、プレイヤーには各々半分ぐらいルールを把握したほうが面白いはずだ。ルールの量にもよるが、長期間になることを念頭に置いていたほうがいいかもしれない。
「現段階の点数をお教えすることはできませんが、点数を可視化することは一部制限付きですが可能です。清算が済んでクリアした方にはささやかながら報酬も用意しております。命を賭して罪を拭おうとした勇気に値するかは保証しかねますが」
あえて推測させるところが、ゲームらしさを引き立たせている。これはプレイヤーへの警告なのか、それとも観客へのパフォーマンスか。どちらにせよ安易にクリアさせるつもりは、流石にないらしい。
「ルールは端末でしか見ることはできません。端末の機能でルールを保存できます。ただし端末に保存されたルールを他の端末にコピーすることは基本的にできません。ルールを端末に保存できる回数はランダムなので、複数人が一つのルールを保存することができますが、必ず全員が知ることは不可能です」
やはり、簡単に終わらせるつもりはないようだ。それを皆、再確認し、周囲の空気がさらに重くなってくる。
「次に清算です。方法はニ通りあります。一つは端末をつけた方の手で銃の形を作り引き金を自身に向かって引く。もう一つは他プレイヤーに強制清算されることです。強制清算のみ清算モードを立ち上げてから対象の端末に触れないと使用できません。対象の端末に触れることにより照準が相手に設定されますが、対象から一メートル離れると解除されます」
精算という手段の場合、遠距離から撃たれる心配はなくなった。ある程度手順を踏まないといけないので簡単にやられることはないだろう。
雅は一先ず、安堵した。
「相手に強制精算された場合でも、撃たれた人間がプラス値なら必ずゲームクリアとなります」
必ず、そこを強調し、ゲームマスターは話を続けた。
「そして、共通ルールによる点数の増減でクリアはせずとも生存することは可能な場合があります」
どよめきが起こる。不明瞭なルール以外に生存方法があるとわかって、顔に希望を湛えた。
「それが今後、個人に与えられるルールです。一人一人条件も付与される点数も違います。そのため、ボーナスのようなものと考えてください。最後に、ゲーム終了時刻は未定です。二十四時間前に端末での通知を行いますので、注意してください。それでは質問を受け付けます」
花鈴が律儀に手を挙げ起立する。
「ねぇ。あの、あの子は自分を打ってないのに起動したわ。こ、故障してるのよ! は、はやく止めましょうよ。中止よ中止」
花鈴は酷く錯乱した様子で、袖を強く握りしめ動き落ち着きがない。先ほど学生や神奈の精神がおかしいだけでこれくらいの反応が正しいのだろう。
「いえ、ルールに則り、機能が作動しただけです」
ルールに則りというのだから、あの少年がしたことにペナルティの要素があったのだろう。雅はそう考えた。迂闊に清算ができない。早期クリア防止のルールでもあるのかもしれない。
雅が考え事をしている間に、花鈴が膝をつき倒れこんだ。そんな彼女に香歩が駆け寄っていくのが見えた。
それに対し、スピーカーからはため息がこぼれる。
「もう一度言いますがこのゲームで生き残るには、ルール通り罪を清算する必要があります。さて他に質問はありませんか?」
雅は横目で周囲を確認するも、誰も口を開かなかった。ゲームの流れを説明されただけだ。ルールは自ら収集しないといけないので、質問することが自然と限られる。
「これは私からのお節介なのですが」
誰も質問しなかったからか、ゲームマスターが勝手に話し始めた。今までの説明で、ルールの重要性は理解しただろう。
機能も皆、別段驚いた様子を見せていなかった所を見ると問題はないようだ。雅だけが時代に置いていかれている。
つまり、この説明会ではルールの重要性の強調と清算の仕方のみに焦点が置かれていた。
「このゲームを勝ち抜くためには他人を信頼する。それだけです。本当にそれだけで、ゲームを勝ち抜く勝率は上がるでしょう」
皮肉るために言っているのかと、雅が勘違いしてしまうほどのジョークだ。だが、本当にこのゲームで勝率を上げるにはルールを知るしかない。広大なフィールドを一人で探索しても見つかりっこないのだ。協力したほうが効率はいいだろう。
どのような手段でというのは自由だが。
「今、皆さんの端末のルール確認機能に、個人ルールの閲覧が可能となっています。ぜひ確認してください」
画面を隠しながら全員確認する。雅も全員の行動を見てから確認を始めた。
その内容は「世界を救え」というものであった。
正直拍子抜けだ。あまりにも抽象的すぎる。雅は外れを引いたな、と舌打ちした。
「では、ぜひ楽しんで!」
そう言ってすぐにゲームマスターは咳ばらいをした。
「と、いきなりこの場で先ほどのように殺し合いをされても困りますので、今から三十分間説明会にいた全員に、殺すことのみ禁止します。そのかわり特典として一つアプリを差し上げます。では、どうぞ」
簡単に死ぬとゲーム性が損なわれるからかはわからないが、禁止されたので銃に手を添えていた人々は構えを解いている。
こうも見え見えな行動をされると失笑ものだ。ここまで拙劣に動かれると襲い掛かる気すら失せる。雅はこの程度なら敵ではないという自尊心があった。
それでも、彼はこの先、どうするか具体的な考えがない。あるのは、一人、いや複数で行動しておきたい、というものだけだ。できればだが。
今、一人で行動するアドバンテージは少なくない。
しかし、雅はその選択を捨てなくてはならない。彼に欠落している判断力を補うには仕方が無いことだ。
周りの反応を見ていると、端末の触り方も普通ならわかるようだった。もし起動の仕方すらわからなければと思うと、生きた心地がしない。
だが、全員で行動すれば、厄介事が起きる。あまり大所帯になるのは避ける方向でいこう。
雅は誰と手を組もうかと思案するために、もう一度全員の顔を確認しようと見渡したら出口に向かって三人、七重神奈と先ほど質問していた学生、スーツを着た男が歩いていた。
「ちょっと待とうよ。せ、せめて自己紹介だけでも」
春人が出て行く人々に向かって言った。
「それもそうですね。僕たちは今ルールに縛られている訳ですから、外に出てそうでない人間に殺されたらたまりません」
首肯し、学生はこちらに戻ってきた。それを見てかスーツの男も戻ってきたが、神奈だけは出口付近にいた。
「悪いけど、私は一人で行くわ。信用なんかしてられないもの」
睨みつけるように辺りを見渡し、最後にスピーカーを注視した。
「私は負けない。絶対に」
気迫とあの行動もあって、誰も引きとめない。扉が閉まったのを合図とし、春人が話し始めた。
「じゃ、じゃあ自己紹介がまだの人からしようよ。あと、九人……いや、七人だったね」
一人、確実にいなくなっているということを再確認し、周囲の空気が重くなる。
「じゃ、私から」
手を挙げたのは見るからに若々しい女性だった。こんな逆境の中でも目が輝いてエネルギーに満ち溢れている。不純な話だが、この中で最も美しいと雅は評価した。
サイズの合わないスーツなのか、豊満なボディーラインがハッキリと出ている。
が、化粧が薄いせいか少し童顔に見えるため、制服を着れば学生でも普通に通るだろう。
「倉永美姫です。起きた場所は森で、攫われたのは会社からの帰宅途中って感じです」
間髪いれず戻ってきた学生が自己紹介を始めた。
「僕の名前は天ヶ瀬皐月。香川で高校生をしています。ところで僕から提案なのだけど、もうどこで起きたか、どう攫われたのはいらないでしょ? 大した情報でないですし。代わりに職業とか住んでる場所に変えましょう」
皐月の提案は半ば強制だったが、雅にとって望ましいものだったので合意する。
雅は彼に不気味という印象を抱いているからか、どうも怪しく見えてしまうが、賛成は別だ。
「あぁ、それには俺も賛成だ。大まかに違う場合のみでいいと思う」
雅も同意することで反対意見はでなかった。
「俺は近藤正彦。東京でボディーガードをやっている」
次に雅を襲った黒ずくめが話し出した。皐月と同じように最低限でいいらしい。
あの身のこなしはボディーガードだからか、と実際に手合せした雅は素直に納得できなかった。
もっと卓越した動きのような――。
近藤に神奈と皐月、これは雅が警戒している人間だった。
「自分は神奈川の天棚学園一年、金原梨子です。よろしくお願いします。」
香歩と同じくらいの背丈だが幼く見える。少し舌足らずで甲高い声も、幼いイメージ形成を手伝っているだろう。
「樋口香歩です。十七歳。京都の常宝学園に通ってます」
常宝学園という単語に少しざわめく。雅はまたわからないので置いてきぼりだ。
「釜田マコトです。マコトがカタカナなんですよねー。変わってるでしょ? 東京でサラリーマンしてます」
マコトは至って普通のサラリーマンであった。少年のような幼さが残る顔と常にニコニコしてるせいか女性に見えなくもない。
先ほど出て行こうとしていた最後の一人だった。
「俺は小松雅。東京在住で、職業は塾講師だ」
雅はここまでの間に嘘のプロフィールを考えておいた。塾講師という職は香歩に先生と呼ばれたことが大きい。
これで一応、一周回った。
そのことに雅も口を開かない。彼の脳が疲れているのか視界が覚束ないのだ。誰も触れないなら黙っておく。司会進行役はしたくなかった。
念のため、花鈴を注視しつつ雅は次を待った。
全員の自己紹介が終了し制限時間まで二十分近くある。名前と職業じゃ当然だ。
「じゃみんなでチーム組まへん?」
謙二郎が提案した。雅が見る限り、乗り気でない反応は皐月と近藤ぐらいで、全員意欲的だ。
雅はできれば少人数で行動したいので流れを変えないといけない。
「そうする場合、人数が多いでしょ。ですので何人かのチームに分けませんか?」
そう提案したのは皐月だった。乗り気でないように見えたのは雅の気のせいだったかも知れない。
周りから賛成の声が聞こえる。雅も少人数で行動したいと思っていたので、及第点だがクリアされ好都合だ。
「概ね賛成みたいですね。ですが出発の前に二つだけ確認したいことがあります」
皐月が手を上げ周囲を見渡す。雅には自信ありげな顔に見えた。疑い出すと顔すら怪しく見えるものだから怖い。
「まずは取得物の配当です。次に他プレイヤーへの対応。殺すことは一時的に制限されてますが、その場合でも後で捕まえて殺すなりしたらいい話ですし」
雅の個人的な意見としてプレイヤーの対応は殺すことは反対だ。倫理観での話でなくゲームのことを考えてそう思った。
ルールに殺すことを誘発させるようなものは必ずあると言っていいだろう。だが無闇矢鱈に殺すのではゲームとしての完成度は低い。保護する。殺しを制限するルールだってある可能性が高い。あの少年が弾けたのはそういうことだろう。
「貴方は殺すことに賛成するんですか?」
梨子が睨みつけながら皐月に近づいて行く。皐月はそれに対し手を振りながら弁解し始めた。
「いえ、僕だって手を汚す様な事はしたくありません。ですがね、殺すのが一番楽なんですよ」
手を汚す、など皐月の個人的主張の割合が高いが、言ってることは雅にも理解できた。
殺したくはないが、そうしたほうが安全なのだ。
「それは……」
梨子が言い淀んだ。至極当然の事である。殺せば殺されないという当たり前のことだ。その意味を理解したから言い淀んだに違いない。彼女も襲われないとは考えていないようだ。
「そんなの決まっているじゃないですか。全員が全員殺すことを躊躇するとは限らないでしょ? ルールには殺すことを推進するものもどうせあるでしょうし」
殺せば殺されないなんて当たり前のことは言わなかった。
雅は疑問に思った。無駄に刺激する事を避けたのだろうか?
皐月の発言を聞いてあからさまに何人かが反応している。演技かと思うほどに素直だ。
同じ思考に至っている人間がこうもすぐ見つかるのは気持ちが悪い。まだまだ平和ボケしているようだ。
人が一人目の前ではじけ飛んでいるというのに。
「埒があきませんし多数決で決めましょうか。まずは取得物の配当から。公平に分けるか、それか見つけた人に寄与するかの二つですね。では―――」
雅には多数決を取る前に確認しなければならないことがあった。ここで目立つのは得策ではないが、今聞かなければチームを組むことすらままならない。
「ルールはどうするんだ? ルールは分配できないだろ」
ルールは命の次に重要とも言える、と雅は考えていた。
ゲームをクリアするにはルールを知ることが大前提。そして推測するに重要度が高いものは確認できる人数は少ないはずだと。
ここでルールを公平に分けると言い出したのなら、雅はチームを組まないつもりだった。できないことを強要すれば、分裂はすぐそこだ。
一人だけ生き残るつもりなら全員の殺害を目指すのが一番確実だろう。
もし。もしもだ、全員を、いや最大数、生き残らせるには全員が嘘をつかず協力する。
もしくは全員を拘束しルールを整理することになる。
どちらもルールに触発していたら別だが。
雅は何故か、無意識のうちに殺さないで済む手段を模索していた。
全員殺すことに躊躇もなく、簡単にできるだろうという根拠のない自信もあったが、心の何処かでそれを考えないようにしていた。
誰も何も発さない状況に飽きれたのか、皐月が憮然としたため息をついた。
「小松さんはどう考えているんですか?」
皐月は急に不敵な笑みを浮かべ質問してきた。
自然と、雅に視線が集まる。
これだから目立ちたくはなかったのだが、仕方ない。彼は諦め思考を切り替えて、これもゲームの一環と考えた。
記憶の構築より現実逃避が得意になっていくのは非常に複雑である。
「ルールは見つけた人間が取得し全員に口頭で伝える事を義務化、って所だな。もし対象が明確なルールがあればそのルールは対象者だけ教えたほうがいいかもしれない。今のところ予想でしかないから何とも言えないが」
ルールの奪い合いが一度でも生じるとスムーズに事が進むとは思えない、と雅は考えていた。
それに肝心のルールがどんなものかわからない以上、最悪を想定すべきだ。
誰それを殺すなど対象者が明確ならそれこそチームは組めない。シビアな問題だった。
「おいおい、ルールを教える事を義務化するだぁ? そんなもの嘘をついたらおしまいだろうが」
福田が急に声を荒げた。さっきまでの印象とはまるで違う。
真っ先にこういう考え方をする男だ。組むに値しない、と雅は判断した。こうして外れを炙り出せただけでもよしとしよう。
「ああ、その通りだ。だからこそ民主的に多数決を取るんだろ?」
「そうですね。小松さんの言うとおりです。ですが、もう少し僕たちのルールを具体化させましょう。曖昧なものほど厄介な事はありませんから」
ニヤニヤと薄気味悪い顔で皐月が雅の発言を補助する。
ルールの具体化ときたものだ。余程自分好みのルールを作るよう仕向けられるのだろう。
雅はまた心の内で苦笑する。ほんとに疑り深い頭だ。
援護してもらえるのはありがたいが、皐月のことを信用ばかりしてもいられない。
「まず、そうですね。一日、チームを二つに分け行動し、その道中で各々ルールを細かく決めるのはどうでしょう? その後、二つのチームのルールを見比べ、全員で多数決を取り最終的に全体のルールとして定めれば」
一日猶予を与えるのはいいだろう。まだこの状況を完全に理解できていない事もある。
「反対する方はいませんか?」
誰も意見を言わなかった。幾らなんでも御しやすい。
急に会話できるものでもないだろう、と雅は納得する。そのための一日と考えよう。
「ではとりあえず、取得物は公平に分け、ルールは回数の許す限り見つけた者たちが所有し口頭で教えるという方針でいきましょう。しかし、毎回教えるのも面倒ですから、明日この場に八時に集合した際にチーム同士でルールは開示しあいましょうか?」
方針に雅の意見が取り入れられたものの不満はある。その場で開示したほうが嘘もつきにくいと思ったが仕方ない。誰も近くにいない場合もあるだろう。
「じゃあ、チーム分けだな。こっからここでどうだ?」
急に口を挟んできたと思ったら福田だった。自分自身で歩いた場所を境界線にし決めるという適当な方法だ。
七:五という分かれ方で七人のほうに香歩、福田、皐月、美姫、花鈴、近藤。五人のほうに雅、瓜生、梨花、春人、マコトとなった。
「こちらの方が一人多いので倉永さん向こうに移ってもらえますか?」
境界線の一番近くにいた美姫に皐月が声をかけた。
「ええ、いいですよ」
これで半分ずつになった。福田は浮かない顔をしている。雅も男性の性は理解できるが、こうも露骨そうにされると反応に困った。
「じゃあ、明日の八時に」
皐月の言葉にそれぞれ返事をし、メールアドレスを交換してから、雅たちは扉を出て右に皐月のチームは左に分かれた。
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