桐が手当をしていると真神がぼそぼそと話し始めた。

「かなり昔……そうだな、江戸時代って言うのか?ここら辺の村は災害に襲われて大変な時があったんだ。

俺は土地神だから色々言われてな。

『祟り神』だとか『俺たちを見放した』

ってな。

天候なんて俺にもどうにも出来ないのに。

そんな時にあの妖狐"不知火しらぬい"が現われたんだ

アイツ、心が弱りきった村人達に嘘を吹聴して回ったんだ。

『あの神はあんた達を愛していない。

お前らは自然を汚す。動物より害悪だ。

だから天罰を下す。餓死するがいい。』

そんな内容だった気がする。

嘘が出回った途端に俺に対する態度が急変したんだ。

その頃、俺には好きだった人間の女がいてな。とても明るくて、橙色の花が似合う奴だった」

そう言い真神は懐かしそうに微笑む。

だがその微笑みもすぐに消え去り、苦虫を噛み潰したような顔になる。

「同じ人間なのに俺に魅入られたからって

その女──詩子を虐め始めたんだ。

酷いものだった、石を投げつけられたり

悪口を言われるのなんてしょっちゅうだった

でも、俺には何も出来なかった。

近づいたら酷くなるかもしれない

そう思ったから。

しまいにはあいつら、女を殺しやがった。

『神と内通しているから。』『こいつがいるから飢饉が終わらないんだ。』『こいつを生贄にすれば。』って、なんの罪もないただ1人の女をな。

それから俺は怒りに任せて不知火を攻撃し、この地に一歩も入れないよう封印した。それが今の結界アレだ。

その事が祟ってか知らないが、俺も封印された。だけど、所詮は人間だ。この札の効力も

もうすぐ切れる。」

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