2章 弍

漆が境内に降り立つと、この真神大社のきりのしずくが掃除をしている最中だった。

「やぁ漆くん。こんにちは。

うちの真神に何か用かい?…とは言ってもまだ寝てるんだけどね」

とても神狼の遣いとは思えないほど柔和な笑顔を見せるこの男はここの神籬ひもろぎ、つまり人ならざる者であり、その名の通り桐の精霊である。

「…お前も大変だな。あんな奴を主に持って。

ところで、この町の結界が弱くなっているのは気付いているよな?」

「ああ、外境が薄くなっているのを感じるよ」

桐が結界の方向を見据えながら頷く。

「さっき外部から攻撃を受けた形跡を見つけた。完全に崩れる前に修復しないと今の強度は保てないぞ」

「それは酷い。僕はここから離れられないから真神を引きずってでも連れて行ってよ」

桐 雫は困ったように唸る。

「ああ」

社殿で寝ている真神を起こすために扉に手を掛け、勢いよく開けた。

「…!?」

その室内の光景に漆は驚いた。

なんと真神が酒瓶を布団の周りに数多置き、寝ていたのだ。

寝間着ははだけ、綺麗だったであろう白髪はぐしゃぐしゃ。室内は酒の匂いが充満していた。

漆は刀を抜いて真神の首に突き立て叫んだ。

「お前は何処まで堕ちるんだ!!!

神狼が!見損なったぞ!」

眠そうな眼をこすり真神が言い返す。

「朝から元気だなぁ…。酒ぐらい好きに飲んだっていいだろう?そこらの人間みたいにけろっと死ぬわけじゃあ あるまいし…」

とその時、微かに”ぱしっ”と何かが砕ける音がした。

「穴が空いてしまったようだね。

はぁ…嫌な予感は当たったじゃないか。

君が来ると碌でもない事が起こる。」

真神の細めた鋭い眼が東の方向を睨む。

「…つべこべ言わず急いで行くぞ。何者かに侵入されてるかもしれない」

2人は音がした方向へ向かった。

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