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そして半日が過ぎ、夕暮れ時。放課後が訪れれば、和葉は当然のように帰り路を急ごうとする。部活の類に所属していない和葉にとって、放課後の訪れは即ち帰宅の合図に等しかった。
「でさー、この間なんだけど……」
「朱音、それホントなの?」
「ホントにホント。信じられないでしょ?」
「悪い冗談にしか聞こえないわ、そんなの」
同じく部活なんかやっていない朱音と横並びに他愛のない話を交わしながら、和葉が校門の外へ向かって歩いて行く。朝とは逆に、学園を出て行く和葉の心持ちは実に晴れやかだった。
「……やっと出てきたか」
そんな、外に向かって歩いて来る二人を遠巻きに眺める人影がひとつ。校門のすぐ傍に停められた黒いインプレッサに寄りかかりながら、ハリーが腕組みをして彼女の到着を待っていた。
「げっ……」
と、そうした時に和葉も、校門の外で待ち構える黒いインプレッサとハリーの姿に気づき。そうすれば、和葉は思わず露骨に嫌そうな声を上げてしまう。
そんな和葉と眼が合えば、ハリーはスッと手を挙げて無言のままに彼女へ軽く挨拶をしてみせた。
「あー、何よぉ和葉ぁ。アレ、もしかして和葉の彼氏さんだったりぃー?」
余計なコトを、と和葉がハリーを視線だけで威嚇する傍ら、この好機逃さずといわんばかりに朱音が物凄くニヤニヤとした顔を浮かべながら、疑念の視線を和葉の横顔に突き刺してくる。
「違うわよ、ンなワケないでしょうが」
そんな朱音に物凄くぶっきらぼうな態度で断言し返しながら、和葉は朱音を置いてスタスタと早足で校門を潜り、そのままハリーの横を素通りして行ってしまう。
「ありゃー……?」
独り残された朱音は、ぽかんとした様子で立ち尽くしていて。そしてハリーは「困ったもんだ……」と辟易したような独り言を呟きながら、そんな朱音に軽く手振りで挨拶をしつつ、さっさと歩いて行ってしまった和葉の後を追い掛ける。
早足で歩いて行く和葉と、それを後から追い掛けるハリー。そのまま和葉に付き従う形で学園の裏手の方まで回ってしまい、ともすれば和葉が唐突に茂みの中に飛び込んだものだから、ハリーが怪訝そうな顔でそちらへと視線を向けた。
「バイトの次はバイク通学か、校則違反が尽きないな」
ともすれば、そこには朝に見たNSR250Rが巧妙に隠されていたものだから、ハリーは呆れた顔で皮肉っぽく和葉に言ってやった。
「貴方には関係ないでしょ、ハリー・ムラサメ」
和葉はそれに素っ気ない態度で返しながら、跨がったNSRのキック・スターターを蹴り飛ばしエンジンを始動させ。そうして、疲れた顔をハリーと突き合わせながらでエンジンが暖まる暫しの
「大体、私はつまらない校則なんかよりも、私自身のルールに従いたいの。まあ、貴方みたいなクソ真面目な男には、分かりっこないでしょうけれど」
「いや、それに関しては俺も同意見だ」
「あら、意外ね?」
「俺にとっては俺自身の法が最優先で遵守すべきモノだからな、他人の決めた法に道徳はどうでもいい」
「それって、例の第何条って奴?」
「そうだ」と、首を傾げる和葉にハリーが頷いてやる。
「案外、私と貴方って気が合うのかもね」
皮肉っぽく肩を竦めながら和葉は言うと、そろそろエンジンが暖まってきたことに気付いた。
「何にせよ、私は貴方の保護を受ける気は無いわ。ハリー・ムラサメ、悪いけど帰って頂戴」
言いながら、和葉はフルフェイス・ヘルメットを被る。
「出来ない相談だ。君のパパさんが未だ行方知れずな以上、君にも危害が及ぶ可能性は十分に高い」
「考えすぎよ。きっと、そこいらで溺れてるんじゃない?」
「普通の人間ならそうかもだが、君のパパさんは仮にも現職の防衛事務次官だ。唐突に連絡を絶ったともなれば、よからぬ連中に何かされたと思って当然だ」
「とにかく、余計なお世話よ」
そう言いながら、和葉はヘルメットのバイザーを下ろしてしまう。
「無駄足ご苦労様ね、でも私の気は変わらないから。それじゃあさようなら」
和葉は茂みからNSRを引っ張り出し、そして公道へと乗り出す。軽くスロットルを吹かしそのまま飛び乗れば、和葉は物凄い勢いでNSRを走らせ始めてしまう。
「あっ、おい!」
慌ててハリーが呼び止めようとするが、しかし弾丸のような物凄い加速でスッ飛んでいく和葉のNSRを止められるワケも無く。数秒後にその背中が完全に視界の中から消え失せれば、ハリーは朝と同じように肩を竦め、大きすぎる溜息をついた。
「予想以上に骨が折れそうだ、あのじゃじゃ馬娘の相手は」
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