5-4
ノウが敵と相対する少し前――山荘の屋上でスコープを覗く那由他は、ただ機械的に敵の額を撃ち抜いていた。
「数が多いな、くそったれ。これじゃあまるでゴキブリだ。はっ、ゴキブリなら殺虫剤で皆殺しだがな」
冗談を言いながらも引鉄を引く。
「それにしても塵のおっさんにモコまで来るとはな。なんだこれは? 同窓会か?」
那由他は援軍の確認だけをして、本来ならばノウが押さえておくはずの正面の敵を重点的に撃っていた。そのおかげもあって敵の侵攻状況は変わっていない。
狙っては撃ち、狙っては撃ち――銃口を向けているのは正面だが、左右の戦場にも別々のスコープを向けて戦況を確認しているせいもあり、烏丸やノウがおかしな敵と戦っているのは気が付いていた。
その上で――那由他の視線の先には、敵陣地に一人構える男に銃口を合わせた。
「ハッ、高みの見物か? そんなテメェには特別な弾をお見舞してやるよ。徹甲榴弾だ――脳味噌弾き飛ばしな」
男の頭に狙いを付けて引鉄を引くと音速を超えた弾が空気の壁を割って進んでいった。が、違和感に気が付いて目を凝らすようにしてスコープを覗き込むと、何かが近付いてくるのが見えた。
「……ああん? ――っぶねぇ!」
飛んできた細い針はスコープを突き抜けて、ギリギリで顔を反らした那由他の頬を掠っていった。流れ出た血を確認してから別のスコープを向けて覗き込むと、そこに男の姿は見えなかった。
「クソが。これで狙った弾を外したのが二人になっちまった――ぜっ!」
言いながら背後の気配に気が付いた那由他は、体を百八十度回転させるのと同時に手に持ったライフルの引鉄を引いたが、それと同時にライフルは不発になるでも破裂するでもなくバラバラに砕け散った。
「っ――!」
次の瞬間には懐に収めていた拳銃を手に取り構えたが、視線の先には誰も居らず、澄んだ青空が目に映るだけだった。
「……あたしの得物だけぶっ壊していくとはな。良いぜ――取って置きを出してやる」
意気込んだ那由他がひと際大きなガンケースに手を掛けたのと同時刻――右舷の烏丸と梟谷の目の前に同じ男が現れていた。
丁度、倒れた指揮官に対して片腕が血塗れの烏丸が引鉄を引いた直後、突然の敵の出現に銃口を向けられない烏丸に代わって、背筋を震わせたのは梟谷のほうだった。
「退がるんだ、刹那! そいつはヤバい!」
投げた五本のナイフが突き刺さると即座に爆発して辺りに煙が立ち込めた。
「一旦引いて体勢を立て直すんっ――だ、ッ!」
煙の中から伸びてきた拳に吹き飛ばされた梟谷は、地面に倒れ込むと蹲って口の中に溜まった血を吐き出した。その光景を見ていた烏丸は漸く銃口を上げると先の見えない煙に向かって引鉄を引いた。
「体勢を立て直す暇すらくれませんか。ヤバいのは――見たときからわかっています!」
反撃の隙を与えるものか、と絶え間なく銃弾を浴びせるとカチリッと弾切れになった。その瞬間にアサルトライフルを投げ捨てて拳銃を取り出した。
「……?」
構えたまま煙の中を進んでいくと、横からの気配に気が付いて首を反らせると顔の間近を拳が抜けていった直後、腹部に衝撃を受けて地面を滑るように吹き飛ばされた。
「っ――」
起き上がろうにも受けたダメージによって体が言うことを聞かない。辛うじて握っていた拳銃の銃口を、そこに居た男に向けて引鉄を引いたが、銃弾は木の幹に減り込んだ。
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