森と風とかくれんぼ -SIDE クロー魔-
クロー魔の提案で持ち上がった、クロー魔とマリーの直仁様を掛けた勝負……かくれんぼ対決が切って落とされました! しかし……真夏の海を前にして、一体何をしているんでしょうね―――……しかも今日はクリスマスだと言うのに。
それでも、二人とも楽しそうにしているので、それはそれで良いのかもしれません。もっとも……直仁様は一向に楽しそうではありませんが。
「それじゃあスグ―? あんたは今から、
「……」
最早、直仁様の意見は全く聞き入れられる事はありません。直仁様はクロー魔の指示に何ら返事を返す事も無く、ノッソリノッソリと移動を開始しました。
「さぁ、マリー。私達は1時間ほど時間を潰しましょうか」
「それなら、もう一回泳ぎたいですぞ―――っ!」
「それじゃあ、行こっか!」
直仁様の雰囲気とは対照的な二人は、これから勝負をすると公言していたにも拘らず、それはそれは楽しそうに手を繋いでビーチへと駆けて行きました。
―――そして、1時間が経ちました……。
「そろそろ1時間ね。……それじゃあ、マリー? ここからは
「わ……私も負けないでする! この勝負、勝ちに行きますからっ!」
互いにそう啖呵を切って、二人は別々の方向へと歩き出しました。
この島は全周5Kmと個人所有の島としては比較的大きい方で、島の中央には小さいながらも森があり、僅かに小高くなっている丘があり、何と川もあるのです! もっとも、動物や鳥は殆ど居ないんですけどね。
ボックはまず、クロー魔の行方を追いました。言っておきますが、この勝負に関してボックはあくまでも中立……心情的にはマリーを応援したいですが、今回はどちらにも手を貸さない所存です!
クロー魔は、その身体能力をフルに活用して、今は森の中を突っ切っています。手の加わっていない森は、草木が好き勝手に生い茂ってすぐに足を取られます。小さい森と言っても、そこを進むのは至難の業な筈なのです。ましてや今のクロー魔は、水着の上にカーディガンを羽織り、足はマジックで固定しているとは言えビーチサンダルです。軽装この上ない恰好を考えれば、女性にこの森を抜けるのは無理なのではと思わせるものでした。
そんな悪条件を物ともせず、彼女は島の裏側に当たる海岸線を目指して駆けていました!
「あら、ピノンじゃない? な―に? ひょっとしてあたしの
ボックが上空から近づいて来た事を目敏く察したクロー魔は、移動スピードをボックに合わせてそう声を掛けてきました。
「ピーヨ」
「そうなの? まあ、
ボックの答えを察したクロー魔が、その理由を簡潔に述べました。因みに、彼女には動物の言葉を知る術はありませんが、暫くの共同生活でボックの話す言葉も限定的に理解してくれているようです。
彼女はスピードを落とす事無く、スイスイと草木を擦り抜けて行きます。クロー魔の「異能力」に身体能力の向上と言うものはありませんから、偏にこれは、彼女自身が持つ能力に他なりません。
それでもその動きは、異能力を発動した直仁様と同等です。そんなクロー魔の運動性能を以てすれば、彼女が言った通りこんな小さな島なら、それ程時間をかける事無く隅々まで見て回ることが可能でしょう。
「
森を抜け、川を飛び越え、丘を上った処で、クロー魔は動く事を止めてそう呟きました。
先程、彼女が公言した通り、クロー魔はあっという間にこの島の主要な部分を見て回り、それでも直仁様を見つける事が出来なかったのです。
「動物も殆どいない森なんだもの……Th
クロー魔がそう言うのも、強ち冗談や虚勢などではありません。人間離れした彼女の感覚は、比較的遠方の気配を察知する事が可能です。この程度の大きさなら、島の中央を横断なり縦断すれば、目的とする気配を探り当てる事なんて造作も無い事なのです。
「……まさか……スグ……。あの格好にはそんな能力が……?」
クロー魔は何かに気付いたのか、そう呟いて考え込みました。ただその表情は、困っているとか悔しがっているとは程遠い、面白い物を見つけたとでもいうかのように嗜虐的ですが。
直仁様の能力、それは……女装をする事で、その衣装によって違う異能力が発動すると言うものです。身に付ける部位ごとに発動する能力も違いますが、最近発覚したのは、コーディネートを整える事で、全体的に能力の向上が図れると言うものです。
普段着ならば念動力系が。軍服ならば攻撃系の異能力が高いレベルで顕著に発動するのです。
「……
一人言葉を口にするクロー魔ですが、落ち込んだり後悔している訳ではありません! それどころか、ドンドンと好戦的な気配が高まっているのが分かります! 周囲に野生生物が多くいたなら、この辺りの動物たちは一斉に逃げ出している事間違いありません! 本音を言えば、ボックもここから逃げ出したくて仕方ありません!
「
今やクロー魔の放つ気配は、獲物を狙う肉食獣のそれです! 舌なめずりでもしそうな表情で、彼女はそう独り言ちました。
確かに、直仁様は女性物の水着を着せられて非常に気分を害していましたが、それでも、その水着を脱ごうとはしませんでした。今考えれば、それは少しおかしなことです。
直仁様なら本当に嫌だった場合、誰が止めてもさっさと着替えてしまいます。例えこの島に男物の水着を用意していなかったとしても、水着を着なければ良いだけの話なのです。
誰が見ている訳でもありません。流石に裸……と言う訳にはいきませんが、普段着のまま海に入る位は出来るのです。
直仁様が水着を着替えなかった理由それは……偏にその水着から得る事の出来る“能力”を試してみたかったからなのかもしれません。
思えば、直仁様が女性物の水着を着るのは今回が初めてです。直仁様は好んで女装をしませんし、ましてや水着なんて以ての外でした。
でも今回は、「無理矢理着せられた」と言う大義名分があります! 直仁様はそれを利用して、女性物の水着の齎す“能力”を知りたいと思ったのでしょう!
「ピノンッ! 随伴はここまでにして頂戴っ! ここからは……
クロー魔はボックにそう声を掛けたかと思うと、正しく風の様に丘を駆け下りて行きました! ……クロー魔はこれが“お遊び”だって、覚えてるんでしょうか……?
クロー魔と遭遇してから30分……。まだ勝負は始まったばかりです。
ボックは再び大空へと舞いあ上がり、今度はマリーと合流する事にしたのでした。
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