陽射しと波と女の闘い
「ま―……スグの
直仁様の恰好を面白そうに、嫌らしい笑いで見ていたクロー魔でしたが、それにも飽きたのか話題を変えてきました。
確かに、この話題を続けても、何処にも着地点はありません。例え……。
例え直仁様の衣装を選んだのが、マリーとクロー魔だったとしても……です。
「どうしたのですかの、クロー魔?」
マリーの疑問ももっともで、クロー魔の顔には先程と違う、何か腹案の有りそうな笑みが浮かんでいます。でも……ああいう顔のクロー魔が何かを言う時は、いつも碌な考えでない事の方が多いのですが……。
「フッフ―――ン……。今日は
勿体ぶったクロー魔の言い様に、マリーは何やら興味津々です!
そして直仁様は……ああ……全く興味なさそうです。
でも直仁様! そこは興味を持ってください! でないと、とばっちりを食うのはいつも直仁様なのですから!
「そこで今夜は―、
「おお―――っ! それはナイスアイデアですの―――っ!」
クロー魔の突拍子もない提案に、マリーは殊の外大喜びです! しかしそれ自体はおかしな提案でも何でもなく、今夜がクリスマスイブの夜だと考えれば、クリスマスパーティを開く事にはボックも大賛成です!
「おお、良いじゃないか。折角のクリスマスだし、思いっきり豪勢なパーティにするのも悪くないな」
さっきまで気分はどん底だった直仁様ですが、クロー魔の提案には大賛成の様ですね。
この島には当然の如くショッピングモールなどありませんし、近くの町と言っても飛行機で5時間以上かかります。普通で考えれば、食材を確保するだけでも大変なのですが、現在の宅配技術は凄いですね。電話一本で何でも……そして、何処へでも届けてくれる世の中なのです。それこそ、新鮮な豪華食材からあらゆる飲料、更には一流コックまで何でもござれなのです!
「でも、折角の
エンターテイメントを求める処は、流石欧米系のクロー魔ですね。ですが、そこまではボックも、そして……。
「う―む―……。それは一理ありますの―――……」
「ふ―む……確かに、何か一風変わったパーティってのも面白いとは思うが……」
直仁様やマリーも、クロー魔の提案には基本的に賛成な様です。ボックも、南国ならではの一味違うパーティなら大賛成です!
「そ―こ―で―……私とマリーが今から勝負する! ……ってのはどうかしら?」
でも流石はクロー魔! 何故その発想になるのかは分かりませんが、ここにいるみんなの度肝を抜いた事に間違いはありません! その証拠に、直仁様もマリーも、クロー魔の言葉を聞いて完全にフリーズしています!
「フッフッフ―……。余りの
言葉も出せない直仁様とマリーを前に、何故だかクロー魔は勝ち誇ったように腕を組んで仁王立ちです。
「……あの―……クロー魔……? アイデアは悪くないけど、何で私とあなたで勝負するって話になるのですかの―?」
完全に頭がクエスチョンなマリーは、もっともな質問をクロー魔に投げ掛けます。
「そうだな……それに、二人で勝負ってのはどういう事なんだ? 俺はどうするんだよ?」
そうです。それにクロー魔の提案には、直仁様が含まれていません。まさかクロー魔に限って、直仁様を除け者にするとは考えられません。
……いえ、本来の関係を考えれば、それが普通なのかもしれません……。そう考えれば、今日この場限りで今までの関係を断ち切り、元通りつかず離れずの二人に戻るのかもしれません! ……まぁ、そんな事は有り得ないでしょうが。
「フッフッフ―――……。ス―グ―……? あんたは
「なっ……!」
「なんですと―――っ!」
絶句する直仁様! そして絶叫するマリー! ……でも、何故だかマリーの表情は歓喜の色に染まっています!
「ウフフ……。この勝負の意味……あんたには分かった様ね……マリー?」
「……おい……俺はまだ……」
「その勝負っ、受けましたですぞっ!」
直仁様は一人冷めた声音で反論しようとしましたが、その虚しい行為もマリーの喜声に掻き消されてしまいました。これには直仁様も、天を仰いで溜息を吐くしかありません。
「そ……それで、クロー魔っ!? どんなっ? どんな勝負をするのっ!?」
鼻息も荒いマリーが、直仁様を置いてけぼりにクロー魔へ詰め寄ります! その剣幕に、話を持ち出したクロー魔の方もタジタジです!
「そ……そうね―――……な……何にしよっか?」
「……へ?」
裏返った声でそう答えたクロー魔に、マリーは素っ頓狂な声を上げて止まってしまいました。
それもその筈で、勝負を提案したクロー魔自身が、その内容を考えていなかったのです! ……クロー魔……勢いだけで提案しましたね……。
「な……何にって……何にしましょう?」
クロー魔に問いかけられたマリーはその答えに困り、首を巡らせて直仁様へボールを投げました。
「いや……俺に聞かれてもな……」
その通りです。先程まで、完全に蚊帳の外だった直仁様に話を振っても、妙案など返ってくるわけがありません。
「でもまぁ……何でも良いんじゃないの? かくれんぼでも鬼ごっこでも、ジャンケンでも」
ああ、直仁様……。その答えは投げやりすぎます。呆れているのは分かりますが、ここはノリに参加しておかないと、一気に白けたムードになってしまうと言うものです。
「……
しかし直仁様の言葉に何かを閃いたのか、我が意を得たクロー魔は直仁様を指差してそう大きな声を上げました。
「ど……どれだよ……?」
いきなり指で差された直仁様は、僅かに後退りながらそう返すだけで精一杯です。直仁様には、クロー魔の何に、何が引っ掛かったのか分かっていません。
「
「おお―――っ!」
クロー魔の宣言に近い高らかな物言いに、再びテンションの上がったマリーが、頬を紅潮させて感嘆の声を上げました。何やら勢いで決めた感がひしひしとありますが、勝負としてよく考えればこれは中々良いチョイスです。この勝負なら身体能力も一般人並みで、特に強力な「異能力」の使えないマリーでも、一線級の「異能力者」であるクロー魔と張り合えます!
「それじゃあ、決定ね! スグ―? あんたはこれから、この島のどこかに隠れて頂戴。1時間後に、あたしとマリーで勝負開始よ! 良いわね、マリー?」
「ええっ! 望むところですぞ―――っ!」
俄然やる気のクロー魔。気合いの入るマリー。
そして……二人を横目に、一人溜息を溢す直仁様……。
こうして二人の美女による、直仁様を巡る熾烈なバトルが切って落とされようとしているのでした!
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