海とビーチとクリスマス

 青い空。

 白い雲。

 焼けた砂浜と。

 エメラルドグリーンの海。

 刻は師走……12月! 世間で言う所の年の瀬であります!

 



 今日は、ボックはピノン。見た目はただの愛らしいセキセイインコ。

 しかしその実体は、目にしたり聞いたりした全ての事を暗記しておく事が出来る「異能者」……もとい、「異能獣」です。

 そして……。


「直仁―――っ! 何してるですか―――? 一緒に泳ぎましょうでする―――っ!」


 あのとっても健康的で明るい女の子は、マリー。ある事件をきっかけに、直仁様と行動を共にしている女性です。笑顔の似合う可愛い顔立ちに反して、最近は至る部分が成長著しい事この上ありません。その話をすると照れる癖に、今は見事に似合う白のビキニを惜しげも無く披露しております!


Come early早くおいでよ! スグ―――ッ! Rady女性を待たせるなんて、Gentlemanの風上にも置けないわよ―――っ!」


 そしてあの元気な女性は、クロー魔。何故か直仁様と行動を供にする様になり、今では寝食まで直仁様のマンションでする様になりました。金髪碧眼で、ボリュームこそマリーには劣りますが、そのスタイルはモデル顔負けです。

 バッチリとボディラインにフィットする紺のワンピースを身に付け、露出ではマリーに負けていますが、それでも美しいスタイルは目を見張る物があります!


「……え―――……。俺はいいよ……」


 そして、この覇気の無い返事を返す男性こそ我が主っ! 直仁様に他なりません!

 身長こそ平均的で余り高くはありませんが、無駄な肉を削ぎ落したその体つきは素晴らしく、正しく細マッチョそのものです!

 お顔の方も飛び抜けてハンサム、美少年って訳でもないのですが、何処か憂いを帯びた瞳を持つその顔はやや童顔で、直仁様と出会った女性の9割は彼に惹かれる事間違いなしです!


「何よ、直仁―……ノリが悪いですぞ―。折角こんなに良い天気……海水浴日和だって言うのに……」


 そうです、その通り。

 マリーの言うように、ここは夏真っ盛りでと―――ってもリゾートに適しているのです!

 それもそのはずで、ここはオーストラリアの北に位置するカークサス・ヨムガルド諸島……通称「カクヨム諸島」と呼ばれる無人島郡の一つなのです!

 交通の便も悪く外洋にも近いこの諸島は、一般の人達にはあまり人気の無い場所なので、島を一つ丸ごと買う様な人達のプライベート・アイランドとなっております。

 ですがそれだけに、何事にも煩わされる事無く、ゆ―――っくりと過ごせるんですけどね。

 

「な―に―、スグ―? 泳ぐのが嫌なら、他の事でもする―?」


 確かに直仁様のテンションは地を這っています。しかし……しかしそれには、この空よりも高く、目の前の海よりも深い理由があるのです!


「泳ぐのも……他の事をするのも……別に良いけどよ……。この格好は何とかならないのかよ……」


 そう……直仁様の気持ちが沈んでいる理由それは……直仁様が今、女性物の水着を着用しているからに他ならないのです!


「プッ……い……いえ、でもでもっ! にあ……クスッ……似合ってるから、問題ないでする―――」


「おい、マリー……噴き出すの堪えながら言っても、説得力ないぞ……」


 そうです、マリー! そんな顔を真っ赤にして、一生懸命口の中で笑いを堪えても説得力なんてありません!


「そうデース! マリー、What are you何をそんなに laughing at so much笑ってるのよ? とーっても似合っていて、すっごくCuteキュートじゃない」


 そう言うクロー魔ですが……ああ、そんなあからさまに悪そうな笑顔では、どんな賛辞も逆効果です!




 確かに今の恰好は、とっても直仁様に似合っています! ええ、似合っていますとも!

 オレンジ色のワンピースの水着は、直仁様の少し浅黒い肌にマッチしています。女性用水着ですが、直仁様は筋肉質の割にスリムですので、そう……筋肉隆々の女性が水着を着ている様な……強いて言うなら、女性ボディビルダーの様な姿なのです! ……これは誉め言葉なのか迷う所ですが……。

 勿論、隠しきれない部分にはパレオッ! これを用いる事で、遠目に見ればとても男性だとは思えません!

 そして今付けているウィッグかつら! 肩口で真っ直ぐ綺麗に切り揃えられた黒髪が、清潔感を誘います! 同じく眉の処で切り揃えられた髪型は昔で言う所のオカッパですが、直仁様のキリリとした面立ちが、その見栄えを颯爽としたものにしているのです!

 その他にも腕にはキレイなブレスレットや、耳には煌びやかなイヤリング、どれもこれも見事にバランスが取れています!

 ……ですがまぁ―……全て女性物……。これを着ている直仁様の心中たるや、想像すらつかない程なのです。




「あのな、クロー魔……。俺が言いたいのは、似合う似合わないの問題じゃ無くて、何でここまで来て……こんな所でこんな格好をしなきゃならんのかって事なんだが……」


 流石の直仁様も、クロー魔のあの笑いを見ては、溜息しか出ない様です。


Come nowまあまあ. 今日はXmaseveクリスマスイブなのよ? 仮装だと思えばいいじゃない」


 クロー魔は、如何にも欧米系らしい言い方で話を締め括ろうとしていますが……ボックには分かります。直仁様はこう思っているでしょう……「この姿は仮装かよ……」と……。


「まぁ……確かに―……。仮装って言われると、ちょっと凹んでしまうかもですの―……」


 そうなのです。何が悲しくてプライベートビーチまで来て“仮装”しなきゃいけないんだって思いますよね―――……。


「ふふふ……。でも直仁も、本当に女装が似合うようになってきましたの―。実は本人も満更では無いのかも知れませぬ」


 ええ……最近はボックも、実はそうでは無いのかと……。


「……違うからな。……おい、マリー。またピノンと内緒話か?」


 そうなのです。マリーも実は「異能力者」。戦闘用ではありませんが、動物の言葉を聞く事が出来る異能力を持っているのです。ですから、ボックとこうして会話する事も可能なのです。




 さて、先程クロー魔が言った通り、こんなに夏真っ盛りにも関わらず、本日はクリスマスイブなのです。

 真夏にクリスマス……それはこの島が、常夏だからではありません。

 この島は南半球に位置しています。北半球でのクリスマスは冬ですが、南半球では夏にクリスマスが行われるのです。

勿論、発祥が北方のクリスマスです。実際にはそれ程内容に大きく異なる処は無い……と言われてもいますが、そこは欧米系の血なのでしょうか? サンタクロースの衣装も一般的な物が普通ですが、南半球ではジョークとして、アロハシャツを着たサンタがトナカイでは無くサーフィンでプレゼントを持ってくる……何て言う話もあります。




兎に角、ボック達は今、真夏のクリスマスを満喫する為に此処、カクヨム諸島へと来ているのでした!

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