第78話 降りやまぬ雨14

それは榊原高校2年3組の篠沢だった。


篠沢は、俺や九条と同じ成績上位者で、いつも総合点順位5位前後をキープしている。


「お前みたいな優秀なヤツが、中学生をストーカーか?落ちたな、篠沢」


冷たい侮蔑を篠沢に浴びせた。


「なぜ早川瑞穂を付けた?」


締め上げた俺の腕の下で、低い呻き声を上げた後、篠沢はたどたどしく答える。


「べ……勉強に行き詰まって……っ。街を歩いてた時、あんまり可愛いから、つい後をつけていって……。榊原中に通ってるのを知ったから……下校時間に合わせて……彼女を……」


俺は、篠沢の腕を一層締め上げた。


ゴキゴキッと、関節だか骨だか分からないものが激しく軋む。


「うあぁぁ……!!」


涙を滲ませた声が、篠沢から漏れた。


俺は耳元に口を寄せると、優しく囁く。


「お前の家、代々医者だったな?当然医学部進むんだろ?こんな不祥事知れてみろ。将来に傷がつくな」


「うぅ……っ」


「どっちにバラされたい?家か、学校か?どのみち、お前の未来は破滅だ」


「頼む……!それだけは、止めてくれ……!バラさないでくれ……頼む!」


俺は、すっかり戦意喪失した篠沢から、いったん腕を解くと、篠沢のジャンパーから、青いスマホを取り出した。


画面を開き、通話履歴を確認すると、びっしりと瑞穂への発信履歴が残っている。


画像ファイルを開くと、複数枚、瑞穂を録った写真が保存されていた。


俺は地面に這いつくばる篠沢の横腹を蹴り上げて仰向けにさせると、スマホの画面を向ける。


「しっかり証拠が残ってるな。これさえ、晒せば言い訳の余地ないな」


「や、やめてください……!それだけは勘弁してください……!お願いします!!お願いします!!」


脚をガタガタと震わせながら、篠沢は仰向けのまま涙を流した。


「このスマホは没収しておく。今度瑞穂を付け回したら、お前は破滅だ。いいな?」


「は、はいぃ……!」


篠沢の顔は、もはや涙と鼻水で、グシャグシャだ。


俺は、篠沢の腹をもう一度だけ蹴りこむと、没収したスマホをジャケットに仕舞い、道路のさらに向こうに視線を向ける。


瑞穂が胸に両手を当てて、こちらの様子を伺っていた。俺は片手を上げて軽く手を振ると、彼女の方に向かって歩き出す。


瑞穂の目の前まで来ると、彼女の顔はひどく青ざめていた。


きっとどうなるか固唾を飲んで見守っていて、緊張したのだろう。


「瑞穂。もう大丈夫だ。ヤツに付け回されることは、もうない。しっかり言っておいたから」


俺はそう言うと、瑞穂の華奢な肩に手を乗せた。


瞬間、瑞穂の体がびくりと大きく波打つ。


「瑞穂?」


「……」


彼女は無言で、ガタガタと震えていた。


余程緊張していたのだろう。


実際にヤツに対峙したのは俺だが、瑞穂の精神的負担も大きかったに違いない。


「今日は、もう帰ろうか?」


彼女を気遣い、そう聞くと、無言でこくりと頷く。


「じゃあ、またな瑞穂」


俺は優しく言うと、その場を去った。


瑞貴に邪魔をされ、一度取り逃がすハプニングもあったが、無事に解決して、本当に良かった。


俺は止めておいた自転車に再び乗ると、清々しい気持ちで家に向かった。


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