家族
でも、勝利を確信した時こそが最大の隙。
「どちらがだ?」
私は剣がめり込んだ瞬間、両手を将官の首にかけた。
将官は目を見開き、咄嗟に剣を私の胴体から引き抜こうとした。でも身体にめり込んだ剣はそう簡単に抜けるものじゃない。
サブの短剣に手をかけたけど、遅い。
私はそのまま渾身の力を込めて、首を握りつぶす。
肉を潰して皮膚が引きちぎれる感触が手に伝わった。
「痛い、な……」
致命傷を与えて安心すると、身体の痛みを自覚する。
骨を切り裂かれる痛みは半端じゃない。レベルアップしていなかったら良くて発狂、悪くて失神していたはず。
村上君がシュプレンゲン相手にやった相撃ち戦法を見よう見まねでやってみたけど、こんなに痛かったのか。それを顔色一つやってのけるなんて、さすが男の子だ。
「ま、待ってくれ……」
驚いたことに将官は喉を潰され、ひゅうひゅうと異常な呼吸音をしながらもまだ喋っている。
潰す位置がまずかったか。カルトマヘンの力で中枢神経、気管、食道の位置を確認してもう一度力を込めなおそうとする。
「妻と娘が…… 私の帰りを……」
そう言いながら手を伸ばし、思い出の中の妻を抱きしめるように、ここにいない娘の頭を撫でるように動かす。
彼が家族のことを本当に大切に思っていることが伝わってくる。
エデルトルートとヒロイーゼさんの関係にも似た、中睦まじい様子が目に映るようだ。
「そうか……」
私は手に込めた力を緩める。将官がむせ込みながらも安堵の息をついた。
なに勘違いしてるんだろう。
「むしろますます殺したいと思えたぞ」
将官の目が驚愕に彩られる。
その顔を見て少しだけ気持ちが良かった。
私は握りつぶす位置を調整するために力を緩めただけで、すぐにさっきよりも力を込める。
そして頸動脈も気管も脊椎の中を通る中枢神経も潰した。
脳への血液供給が完全に止まり、脊椎の中を通る交感神経も副交感神経もぐちゃぐちゃになる。
将官が一瞬だけ絶望の表情を浮かべた後、完全に息と心臓が止まったのが確認できる。
「吾輩と違って良好な親子関係…… 妬ましくて殺したくて奪い取りたくて仕方がないな」
莫大な経験値が入り、カルトマヘンの力でステータスが上がったので傷が癒えた。
「ふむ。なかなかの経験値になったな」
周囲には私が殺した人間というクソどもの死体が美しい大地を血で彩っていた。
足元には一番苦戦した人間の死体が転がっている。そういえば、名前も聞いていなかった。
まあいいか。経験値の大小が問題なのであって名前など問題じゃないし。
私は元来た道を急いだ。
後ろで誰かが何かを呟いているけれど、気にしない。
「なんなんだ、あの少女は…… スカウトしたはずの剱田とかの仲間か」
急ぎ過ぎて、何度も木に身体がぶつかって破壊してしまったことに心が痛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます