僕のチート能力:カルトマヘン(kaltmachen)

 僕の顔の倍はある大きな雄鶏の顔がアップになって迫ってくる。


 縄で転がされた僕をくちばしでつつき始めた。あちらからすればつついているだけなのだろうけれど、一突きごとに顔面に穴が開くような傷ができていく。


 顔はとっくに血まみれで、目に血が入って何も見えない。


 顔に飽きたのか、今度は足にくちばしが伸びた。


「うがっ……」

 足に噛みつかれ、脚の肉をごっそり持って行かれた。コカトリスは美味しそうに僕の肉を咀嚼し、呑み込んでいる。


 ひとしきり肉の味を楽しんだのか、次は僕の腹にかぶりついた。

 今度は声も出なかった。


 腹を食われるのは足を食われるよりずっと痛かった。


 腹から足とは比べ物にならない量の血が溢れだし、意識が遠のいていく。

 でも、まだだ。


 腹を食われたおかげで、縄が腹ごと食いちぎられて腕が自由になった。

 すかさず腰のナイフを、ありったけの憎しみをこめて引き抜く。


 僕の血を吸ったナイフは、曇天の下でひどく禍々しい感じに見えた。

 ナイフをコカトリスにつきたてようとは思わなかった。僕のレベルで、剱田たち総勢でかなわなかった相手に攻撃が通じるわけがない。


 僕が狙うのは。

 僕は地面に倒れた体勢のまま、僕が食われるのを見学していた村人の喉にナイフを投げた。

 乾坤一擲の賭けだったけど、幸い村人の喉に命中し、それが致命傷となったのか村人はゆっくりと倒れて行く。


「な、なんで……」


 そいつが喉から真っ赤な血をあふれさせて息を引き取っていくのを見ても、何の感慨もわかなかった。

 その瞬間、僕は自分がレベルアップするのを感じる。同時に飛躍的に上昇したHPのお陰か、村人から受けた傷も、コカトリスから受けた傷も見る見るうちに塞がり、完全とは言えないけどほとんど痕跡がなくなった。


 今の僕の最大HPからすればあの程度の傷はかすり傷なのだろう。


 これが僕の得たチート能力、「カルトマヘン(kaltmachen)」。

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