レベル差が開いていく

「お前は無能なんだから村人の手伝いでもしておけ、俺らは強くてすげえからもっと強くなる」


 翌朝、剱田たちはそう言って村を出て行った。昨日は死んだ村人の家を借りて、そこで寝たらしい。全員で寝るには狭かったので、僕だけは野宿だった。

 すぐ目の前の家でクラスメイト達が笑い声をあげながら遅くまではしゃいでいる傍で野宿と言うのはかなりむかついた。清美は苦い顔をしていたけど、クラスの空気を読んで反論はしなかった。


 でも、枯れ葉は地面に敷けるくらい集めてくるまって寝ると意外とあったかいということがわかった。わかりたくもなかったけど。


朝、清美に詳しく話を聞くと、しばらくは村を拠点にして、なぜここに来たのかを調べに行ったりより強力になったクラフトを試しうちに行ったりするらしい。

 僕は村に残って、柵や家の修理を手伝うことになった。清美は怪我が治りきっていない村人たちのケアをするらしい。

 僕の持つナイフが頑丈なので、細い木ならナイフで切れ込みを入れてから上から峰を枝で叩けば薪割りができる。

 キャンプとかブッシュクラフトの本とかが好きだったのが役立った。


 倒木や村人が斧で切ってくれた木を更に切って、柵や家の支柱にしていく。


 さらに、僕はナイフを使って火を起こすのを手伝った。

 弓の弦を使ってブッシュクラフトではスピンドルと呼ぶ木の棒を回し、木片とこすり合わせるのだがそれだけでは火はつかなかった。

 色々と試してみたけど、フォームが重要だ。

 回すスピンドルがぶれないようにしなければならないため、体の重心をセンターに、そしてスピンドルの真上に置く。そして左膝を立ててしゃがんで左腕を左脛につけて固定する。


 拳を脛に当てるような感じで、弓の一番手前を持って水平方向に、初めはゆっくり大きく。慣れてきたら少しずつスピードとハンドルにかける圧力を強くしていく。

 弦を張り直したりスピンドルを滑らかにしたりしながら続けて行くと、やがて煙が上がり木片が黒く焦げて行った。

 黒く焦げてきた木片の中に米粒ほどもない小さな火種が見える。

 それを細かく切った木の繊維や屑を置いて息を軽く吹き掛けると、火種が炎になった。


 ライターもマッチも使わずに火が起こせたことが嬉しくて、思わず叫び声をあげてしまう。魔法も使ってないのに魔法使いになった気分だ。

 後は細い木、太い木に順々に火をつけて行く。湿っぽい木にはナイフで切れ込みを入れてから火をつける。


「若いの、なかなかやるな」

「火打石なしで火をつけるのはかなり難しいのじゃが……」

 それから起こした火で鍋を温めて、復興作業を行なっていた村人たちと一緒に昼食を食べた。


 昨日の残りのスープとパンだったけど、剱田や岩崎、僕を見捨てて逃げたクラスメイト達と食べた夕食とは比べ物にならないくらいに美味しかった。

 食べながら、この村とその周辺の情報を色々と聞きだすことができた。

 この村は辺境で、近くの森から時々獣が出てきて村を襲うらしい。

 隣のイエナという村にシュティラ―さんという村長さんがいて、一人娘と共に暮らしている。村の規模はこことは大差ないけど、森から村一つ遠い分獣に襲われることは少なく、その代わり盗賊の被害が多いらしい。 

 ここ一帯を治める領主の名はカール・デーニッツだが中央の様子や領主の人柄などはわからない、とのこと。


 何の力もない僕だったけど、村人には清美の次くらいには感謝されて溶け込むことができたと思う。それにキャンプやブッシュクラフトっぽいことも結構楽しい。

 剱田たちに家族を殺された村人に謝ろうとしたけれど、彼らは僕とも関わろうとしなかった。


 清美は傷ついた村人のアフターケアをした後は

「ごめんね、でも剱田君たちも心配だから」

 といってクラスメイトたちの方へ行ってしまったので、午後から夕方まではクラスメイトがいなくなって僕一人になった。僕は戦闘では今のところ役立たずなので、清美についてはいけない。


 清美と一緒にいられないのは寂しくて心配だったけど、気が楽でいい面もあった。

 僕を見捨てて逃げ出したクラスメイトを、もう信用する気にはなれなかった。

 そして数日が経過したが、帰るための手がかりは何も見つからなかったらしい。

 だがクラフトを使って獣を倒しまくったお陰で、さらにレベルが上がったそうだ。


 僕とどんどん差が開いて行く。

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