仕切る

 

 僕たちが案内されたのは村で一番広い家だ。

 丸太を積み重ねて作ったログハウスみたいな作りだけど、ガラスが無いから中は昼なのにうす暗い。

 そこに僕たち全員が通され、村長が歓迎のあいさつをしながら村人たちに料理を運ばせていた。


 じゃがいもと豚肉だけのスープに茶色っぽくて固いパンを付けて食べ、少しだけ果物がデザート代わりに用意されている。


 剱田と岩崎が料理が粗末だ、と言いだして暴れださないか冷や冷やしたけれど、二人とも空腹が勝ったのか文句も言わずにがつがつと食べている。

 半日ぶりくらいの食事で普通なら美味しいと感じるはずだけど、剱田や岩崎と同席しているので上手いと感じなかった。


 なにしろ食べ方が汚いし、平然とお代わりを要求するし、給仕に来た村の娘さんにセクハラするし、おまけに食べ終わるとそのまま横になって、いびきを立て始めた。

 その二人を村人たち何人かが射殺すような視線で見ていた。


 きっと二人の攻撃の巻き添えで亡くなった村人の遺族だろうが、睨んだだけでそのまま立ち去った。


「なあ、あいつらヤバくないか」

 クラスメイトの一人、柳田が僕たちだけになった後で提案する。

「うん…… 巻き添えになって殺されたこと、相当恨んでるみたいだしね」


 大人しいクラスメイト、桜井も同意する。

「いっそ殺っとくか」


 柳田が武器を持ちあげて席を立とうとする。

 皆多少は驚いた顔をしたけれど、止めようとはしない。こいつら、こんなに残酷だったのか。いや、殺せる力が無く、法の裁きがあったから現代社会では我慢していただけで、力を手に入れて警察が身の周りにいないとこうなるのが自然なのか。


「駄目だよ!」

 清美が立ちあがって、叫ぶように言った。

「そんなことしたら、また新たな憎しみが生まれるだけだよ…… それに、せっかく治療したのに殺すなんて、そんなの駄目だよ……」


 清美がすすり泣き始めたので、クラスの空気が大分変った。

 そこに、

「その通りだな」

 巻き添えにした張本人、剱田と岩崎が起き上がった。

「巻き添えにしたのは俺らのクラフトだからな、俺たちが責任を取る」


「こっちからは手出ししねえが、向こうから殺そうとしたら正当防衛だ、やり返す。それでいいな?」


 堂々とした二人の物言いに誰も反論できず、それに責任を取ると言う言葉に説得されたのかクラスメイトたちはそれに従った。


 村人が死んであんなに泣いていた清美も、剱田の言葉に従った。


 それが妙に引っかかった。

 それに、クラスメイト達に言いたくなる。お前ら、この二人を野放しにする気なのか?

 でも力がない。気持ちはあっても、この中で僕はもっとも力がない。だから、気持ちは押しこめるしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る