第17話 お客様相談室さん その2
「うっ…… うぅぅぅ……」
俺は膝を抱えて蹲っている。時折、嗚咽しながら現実を直視できないでいた。
走馬灯のように今までの
悲しい事もあったが、夢に満ち溢れていた事も多かった。
だが今の俺に溢れているのは涙だけであった。
「いつまで泣いているんですか」
「うぅぅ……」
「……本当に軽量化しますよ? その必要のないモノは、私の善意で存在しているんですから」
強制的に涙を止められた俺は、直立不動の体勢で従順を示す。
だが余計な具申をしてしまう。
「……お言葉ですが世の中に必要ないモノなんてありません」
「そうですね。そうかもしれません」
「タマタマ今回のような事故が起きてしまったのは残念でありません」
そう口にした瞬間、氷の女神へターン移行。
「反省なしですね。反省してもらいましょう」
「反省しましたぁ! 心より反省していますぅ! だってココだけ凍傷って生きてて中々ない事ですよ!? 奇跡の反省ですぅ!?」
「そうですね。そうかもしれません」
「冷たぃ~ 冷たいよぉ~」
凍った秘部を弄びながら泣き落としモードへ切り替えるが、彼女は構う事なく言い放つ。
「やはり去勢したほうが良さそうですね」
「いやだぁ!? 去勢なんかされたら私の人生が強制終了ですよ!?」
ジンジンと冷たさを感じている今はまだ安全圏。
この感覚すらも無くなればイチモツも亡くなる。
「どうすればっ!? どうすれば許して貰えますか!?」
氷の女神どころか氷の魔女となった彼女は、冷たい視線と合わせ薄ら笑う。
「そうですね。絶対服従を条件に許しましょう。誓いますか?」
「ぜ、絶対服従!? その条件を呑んだ瞬間に、去勢させるつもりじゃないですよね!?」
冷え切った廊下に静寂の時間が訪れる。
彼女も俺も微動だにせず時間だけが過ぎていく。
「信じてくれないんですか……? クラさん……?」
いつものような柔らかい笑みを浮かべ直したムン。
俺はその問いに――――
→ 信じる
信じない
もう一度見せる
「分かりました。信じます」
チャレンジャーな俺は、少しばかり迷ってしまったが無難な選択肢を選んだ。
彼女はその回答に満足したように目をつむりながら一度頷いた。
「では解凍しましょう」
ムンが何かを呟いた瞬間、強固な覆われていた氷が融解し廊下を濡らす。
大事なイチモツは、一回り小さくなって再登場した。
「あっ!? ちょっと小さくなってるんですけど!?」
「そうですか? 最初からその程度のモノだったと思いますけど? ですがダウンサイジング化が進んで良かったですね。無駄なモノが少なくなるという事は環境にも喜ばしい事です」
彼女の物言いを話半分に聞き流し、イチモツを弄くりながら摩擦によって暖める。
魔法の類いでコンパクト化されたと考えたが、実際は冷たくて縮こまっているだけであった。
「クラさん? お手数ですが、私の部屋に来てもらえますか?」
俺に背を向け、そっと廊下を歩いて行くムン。
慌てて服を着て後を付いていくと、振り返りもせずムンが質問してきた。
「先ほど……誰かに助けを呼んでいましたよね? 仲間が近くにいるんですか?」
「仲間ではありませんし、近くにもいませんし、役にも立ちません。私がこのような状況になった原因を持つ存在です。むしろ貴方の仲間になりえる存在と言えます」
ブラックムンのファンになりそうな
「私の仲間にですか? ……まぁいいです。それとクラさん? もう普通に喋って下さい」
今さっきまでのやり取りなど無かったと思えるほどに、ムンの表情と言葉は柔らかくなっていた。
「どうぞ」
ムンが自室の扉を開け、俺に入るよう促す。
扉を開け持ったまま、俺を自室に迎え入れようとするムンは淑女の様であった。
昨日の夜と変わらないムンの自室は植物の緑に覆われている。
自然を感じた俺は一安心。階下にいるカーパ父上とルーナお母様に騒ぎを嗅ぎ付けられなかった事にも安堵した。
「気づかれなくて良かったぁ…… 神よぉ……」
俺が祈りを捧げていると、ムンは後ろ手で扉を閉めて鍵を掛けていた。
そのまま彼女は机の引き出しから、一枚の紙を取り出し机の上に置く。
「クラさん。ここに名前を書いて下さい」
「え? なんで?」
「念書みたいなモノです。誓約書とでも言いましょうか。あのような愚行を行わないように魂を込めて名前を書いて下さい。この右下辺りですね」
真っ白で何も書かれていない紙と、羽根付きならぬ葉っぱ付きのペンを渡す。俺は指示された通りに名前を一筆入魂する。
「闇山津見と……。他には何か書かなくていいの? いきなり露出はしませんって書くかい?」
「十分です。いや十二分ですね。アハハ」
俺は目を見開き驚いた。
怒りから生まれたブラックなムンは先ほどチラホラと見えてはいたが、このような嫌らしい笑いをしていなかったから。
「ムン……? ど、どうしたの? ちょっとクラヤマさん、その笑いは恐いかなぁ~?」
「そうですか。そうですよね。ふふっ」
「随分と可愛らしい感じにはなったけど、まだなんか恐――――」
最後まで言い切る前に、俺の全身が神々しい光に包まれる。
「はぇ……? お、俺の股間が熱くなって……?」
光の輝きが落ち着くと、俺の股間に両手ほどの小さな魔法陣が展開された。その魔法陣はクルクルと回りながら股間に吸い込まれるようにして収束していった。
「完了っと。クラさん楽にして下さいね? ほら……肩の力を抜いて抜いて」
俺は熱さが次第に引いていく股間を弄りながらムンへ質問した。
「へ……? 完了って……?」
ムンは先ほど俺の名前を書いた紙を目の前に提示する。
そこには「絶対服従権利契約書」と浮かび上がった文字がキラキラと光っていた。
「誓いの通り契約させて頂きました。口約束ほど愚かな行為はありませんからね。それに私……約束って言葉、あまり好きじゃないんですよ。だって破る事の出来る決まり事なんて何か意味あります?」
俺は光る文字を見ながら、紙を両手で持って小刻みに震えている。
「そう言えばクラさん言ってましたよね? 世の中に必要ないモノなんてありませんって。そうですね。そうかもしれません」
ムンは俺の顔を一瞥した後、視線を下げていき、魔法陣が展開し収束していった股間に目線を合わせた。
「どうして絶対服従権利の契約場所が陰部なんだと思いますクラさん?」
「わ、分からないよ」
「別に全ての契約が陰部って訳じゃないんです。その者の魂が宿っている場所に魔法陣は展開される。クラさんにとって本当に大事な場所って事ですよ」
俺は契約書を机の上に一度置いて状況を整理する。
「危なかったです。もしクラさんの陰部を砕いてしまっていたら、絶対服従の権利をみすみす逃すところでしたね。ですが流石はクラさん。陰部に魂を宿らせる事の出来る生物なんているんでしょうかね? 普通は心臓だったり頭だったりするんですけど」
ムンは冷静に言葉を繋いでいく。
俺は一歩前に出て――
「なら、去勢される事はないよな? 行えば、その瞬間に契約は解除されるハズだ」
「そうですね。そうかもしれません。ですが……乙女心を傷つけるような事があれば、その者の魂と、そのモノが失われる事になるでしょうね?」
ふぅ―― 張っていた気を肺からの空気に乗せて吐き出す。
「しないよ。ムンには色々助けてもらってるんだから、そんな事はしない」
「でも……しましたよね? 客観的に見ても完全変態行為、それが現実に起こってしまった。意味もなく脈絡もなく陰部を露出し、相手の劣等感を煽る人の事を信用できますか?」
否定はしない。
今ココで伝えるんだ、何故なら俺は――――――
「人ならば信用できないだろう。だが俺は人ではなく…………神だからだっ!!!」
「最低でも睾丸は潰した方が良さそうですね。去勢された雄ネコみたいに大人しくなりそう。それとも甘えんぼさんかな? アハハ」
ニャ――――――――――――!!!
日本のマイナー神が異世界布教! 雨夕美 @amayumi
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