第16話  お客様相談室さん


「フッサフサぁ~ あぁ~ フッサフッサぁ~」


 上機嫌に両サイドの髪をいじりながら歌うカーパ父上。

 この状態になるまで、さほど時間は必要としなかった。


 己の存在確立の第一歩である、お客様相談室の設置に漕ぎ着けた俺は要望通りに、もう一部屋を都合してもらったのである。


「とりあえず……部屋を見てみるか」

「じゃあ一緒に二階へ行きましょう」


 一階には楽しそうな雰囲気が、これでもと言うくらいに満ちあふれていた。

 ルーナお母様はカーパ父上の若い頃を思い出しているのか、ウンウンと頷きながら悦に入っている。

 

 階段を上がる度に木が軋む。

 建物自体は年代物と言っても差し支えない。それでも古さより暖かさを感じるのは、ここに住んでいる者達が愛情を持って手入れしている証拠だろう。


「ここですね」


 階段寄りの部屋の前でムンが扉を指す。


「ここか。開けるよ?」


 ムンは可愛らしい小さな両手を広げて、どうぞどうぞと俺に許可を出す。

 しかし俺はムンの動きを見逃さなかった。彼女は俺の視界範囲から外れそうになると、俺を盾にするかのように後ろへ回る。


 どうにも怪しい動きだ。なら俺も怪しい行動を――――


「ムン? 俺はね? 馬並みなんだよ?」

「え? 馬……ですか?」


 チ○ポの話ではなく、あくまで視界の広さである。

 実際は人と比べて多少視界が広いといった所だろう。


「見てみたい? ん?」

「何をですか……? 馬ですよね……?」

「召還しようか? ん?」


 俺は腰を若干前に出しながらムンへ軽く詰め寄る。


「召還できるんですかっ!? 馬をココに!? クラさん凄い!」

「ん~ん~ 出来るねぇ~ 簡単に召還できるんだコレが~」


 ムンは両手を握りしめながらピョンピョンと跳ね、興奮を俺にアピールしていたが如何せん手が小さいので、小動物がエサをねだってくるようにしか見えない。


「私も妖精族の端くれです! 後学の為に是非見てみたい! クラさん!」


 俺は、お客様相談室になるであろう扉の前で、困り顔をムンへ披露。


「そうだね。見せてはあげたい。けど、召還には高額な報酬を頂いているんだ。実は通常の馬じゃないんだ。いわば神馬。神が騎乗する大事な大事な馬なんだ」


 実際に召喚したら騎乗するのはムン、君だよ? 

 神に騎乗とはこれ如何に。 


「そう……ですか。そうですよね。そのような神馬を簡単に召喚してはいけませんよね? でも見てみたいなぁ~ 乗ってみたいなぁ~ 神馬かぁ~」


 ムンムン! アキラメルナ!


「ムン? あきらめたら、そこで騎乗終了ですよ?」

「え? そこでって事は今、騎乗は出来てるんですか? もしかして既に現界して? 目に見えない存在なんですか?」


 俺はもう一度言葉の意味を深く考え、思考ポーズな素振りを見せる。

 だが、よく分からなかったので、適当に話をつなげていく。


「現界していると言えばしている。だが今は完全な状態ではない。それをフルパワーにする為に必要なキー…… それはムン、君だ!」


 股を広げ、実際に馬に跨がっているような体勢のまま驚くムン。

 たてがみを撫でるような仕草をしながら彼女はこちらに振り向く。


「私が……神馬のキー……」


 本当は、俺がキーでムンが鍵穴だけどね? 逆だね? ごめんね?


 不埒な考えが脳を支配しそうになった瞬間、一度俺は辺りを見回す。

 廊下には俺とムンがいるだけ。階下では今だ楽しそうな、カーパ父上とルーナお母様の鼻歌がここまで聞こえてくる。


「ふぅ…… 大丈夫なようだな……」

「クラさん? 召還に疲れて?」


 ふっと髪をかき上げながら――


「確かに疲弊はする。だが希望の方が上さ」

「希望…… 私は神馬の希望なるキー……」


 桃色脳内から現実に帰郷した神。

 馬色脳内から妄想へ旅立ったムン。


 俺はもう一度辺りを見回し、状況を確認する。

 

「何……してたんだっけ……?」


 多少長く生きすぎてしまった弊害なのか、痴呆の片鱗を召喚してしまったのか、俺には判断がつかなかった。


「え? 神馬を召喚してくれているんじゃないんですか?」


 俺はポンっと手を打って状況を理解した。

 そのままムンの希望通りに自分のパンツごと衣服をズリ下げてイチモツを召喚した。


「これがお望みの神馬ですよ? ムンムン?」


 彼女は希望が叶ったからなのか、おずおずと召喚された神馬の前に跪く。

 今度は俺の希望を叶えてくれるのか、座したまま身体を前に出し、両手で優しくイチモツを包み込んだ。


「アッ――――――――――――!!!」


 絶頂せず絶叫した。

 ムンの両手に包み込まれた俺のイチモツは、熱さなど全く感じる事が出来ないほどに氷の塊で覆われていた。


「私は末席にいるとは言え妖精族なんです。油断している相手になら、これくらいは出来ますよ? 私の魔法は気持ちいいですか? ヒンヤリとして子馬さんも大喜びですね?」

「違うんだムン!? 子馬さんじゃないんだ!? 神馬なんだっ!?」

「じゃあ氷を砕いて来世に期待しましょう」

「待って!? 今世でも十分活躍できるサイズだよ!?」


 ムンは一度両手を合わせて祈る体勢を取った。

 俺は慌てて後ずさる。だが腰が抜けたのか、尻餅をついてしまった。


「クラさん? なんだか私……軽い女と見られてるんですかね?」

「軽くないよ!? 重いよ!? 君は十二分に重いよ!?」


 その言葉が致命的だった。

 ヒンヤリどころか凍える眼差しをアイスピックのように突き刺してくる。


「そうですか。私……重いんですね。太ってるって言いたいんですか?」

「違うよ!? 全然違うよ!? ボン! キュッキュッ! ボン! だよ!?」


 ムンは別段太っている訳ではない。ナイス☆ミニグラマーなだけ。


「一緒にダイエットしませんか?」

「へ……?」


 するとムンは一度手を開き、握りつぶすような仕草を目の前で行う。


「ひっ!?」

「必要ないモノは捨てるんです。些細な大きさでも……立派に軽量化になりますから……」


 俺は神に祈る事なく、助けを呼んだ。


 「天之御中主神アメノミナカヌシノカミ! 見てるんですよねっ!? 助けてっ!?」


 すると脳内に直接響くように、天之御中主神アメノミナカヌシノカミの声が頭の中で反響する。救いの神は見捨ててはいなかったのだ。


『あ~ 女性に対して重いはないんじゃないかな~』

「Exactly!」


『アホだね? 一方通行ワンウェイ手術オペになっちゃうね?』

「Help me!」


『いやぁ~助けたくないし、神でもやりたくない事ってあるんだね~ それから彼女のファンになりそうだよ~ 終わったらよろしく言っておいてね~』

「Noぉぉぉぉぉぉぉーっ!?」




――― 手術中 ―――




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