第43話


「結婚式場を予約したってどういうことなの?」


高木さんから話を聞いて驚いたわよ。普通は男の人の方が消極的だって聞くのに、蓮はどうかしていると思う。


「結婚してくれるって言っただろ? こう言うのは早い方がいいんだよ。ズルズルしていると破局したりするんだから」


「そんなことで破局するようだったら結婚しても別れると思うよ。だったら婚約期間が長い方がいいと思う。離婚って疲れるらしいわよ」


なんで付き合いだしたばっかりなのに離婚の話なんてしてるんだろう。自分で言っておいて、頭を傾げたくなった。それもこれも蓮が極端すぎるからだ。

そうかユカや高木さんが結婚するからだ。友達が結婚すると自分もしたくなるって聞いたことがある。きっと蓮は置いていかれるようで寂しいのね。


「違う。高木が結婚するから寂しいとか思ったことないから」


どうやら心の声がだだ漏れだったようだ。でも違うのならどうして結婚を急ぐのかわからない。

蓮とあうのは十年ぶりだったし、付き合いだしてまだそんなに経っていない。確かに結婚を前提みたいな感じだったけど、慌てて結婚ゆっくり後悔なんて事にはなりたくない。


「そんなに急がなくてもいいじゃない。幼なじみでお互い知ってるって言っても十年もあってなかったんだから、婚約期間が長い方がお互いのためにもいいと思うよ」


「なんか気に入らないな。普通は女性の方が衣装を決めたりで大変だから急ぐものじゃないのか。もしかして結婚まで考えてないってことはないよな。俺、きちんとプロポーズしたし菜摘だって頷いてくれただろ」


確かに頷いた。でもこんなに早く結婚とか言い出すとは思ってなかった。だって私はまだ覚悟が決まっていない。確かに蓮と離れたくないって思ったから、彼の手を取ってしまったけど本当にそれでいいのか今も悩んでいる。


「あのさ。この間の夜のことなんだけど…」


そのあとが続かない。どういえばいいのか悩んでしまう。


「ああ、避妊のこと? うん、してないよ。だって結婚するんだからいいよね」


「はぁ? 何言ってるのよ。それは妊娠しにくい身体だけど万が一ってこともあるのよ。避妊するのは常識でしょ」


「でも子供できないの気にしてたから、欲しいのかと思ったんだよ。俺との子供欲しくないの?」


蓮の子供はきっと可愛いだろう。蓮の幼い頃を思い出すとニヤニヤが止まらない。


「ほら、やっぱり欲しいんだ。俺も菜摘のミニチュアだったら欲しいかも」


蓮は優しいから菜摘以外の子供は欲しいとは思わないけどって後ろにつけてくれたけど、本当にそうなのかやっぱり不安だ。避妊しないのがいいとは思えないけど、確かに妊娠したら私の不安の一つは解消される。


「違う違う。私が言いたかったのは避妊のことじゃないの。わたしの身体のことよ。傷だらけだったでしょ? 」


「ああ、そのことか。てっきり傷跡を目立たなくするのは手術を受けたのかと思ってたから驚いたけど、何か言いたいことでもあるのか?」


あの時蓮は一瞬息をのんだ。足の傷と下腹の傷。醜いと自分でも思うけど、何回か手術をしたからもう手術をするのが嫌でそのままにしていた。それにあれ以上蓮の両親にお金を払ってもらうのも遠慮したかったのだ。


「蓮が気になるのなら手術を受けようかと思うの。前は手術を受けるのもう嫌だったし、お金のことも気になってたから受けなかったんだけど蓮がこの傷が気になるのなら受けてもいいよ」


「それって結婚するのが伸ばすため? だったら俺は全然気にならないから手術しないで欲しい。もしどうしても菜摘が気になるのなら結婚してからすればいいよ」


蓮は全く気にならないと言ってくれた。本心かどうかはわからないけどホッとした。実は手術をしたくないと言ったのは本当のことだ。麻酔をするたびにそのまま眠ったまま起きれないのではないかと不安だった。知り合いといえば日本からついて来てくれた看護師だけで、怖くてたまらなかった。だからできるならもう手術は受けたくない。蓮が気にしていないのならこのままでいいよね。


「それでとりあえず今度の休みに俺の両親に会いに行こう。それと菜摘の両親にも会いたいからいつがいいか聞いておいて。それが終わったらお互いの両親にあってもらわないとな。高木が言ってたけど、結婚って大変だな」


「そう思うならゆっくりでいいよ。ね、ゆっくり決めよう」


「俺はささっと決める方が好きなんだ。仕事でもそうだから、諦めて。それに俺はもう十年も待ったんだからこれ以上待つつもりはないよ」

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