第34話 蓮side


最近どうも菜摘の様子がおかしい。LINEの返事も一応来る。

でも俺にはわかる。あれは何か企んでいる。高木とユカにも聞いたが変わったことは何もないと返事があるだけだ。

まさか引っ越しする所が見つかったのか? いやそれはないだろう。

あの大泣きした日から会っていない。また海外出張だ。玲子さんが代わりに行ってくれればいいのに知らん顔されてしまった。このままではせっかく縮んだ距離がまた開いてしまう。

まさか本当にユカのことを気にしてるとはな。そんなにユカの方を優先していただろうか。確かに初恋はユカだったけど、小さい頃だって菜摘にはユカと同じように接していたと思う。でも思うだけで差が出ていたのだろうか。

俺が菜摘を意識しだしたのは中学の頃だった。でもその頃は菜摘のことは友人だと思っていたかったから、冷たい態度になっていたのかもしれない。

なぜ友人だと思いたかったのか。それはユカとは全く関係ない。ユカとキスして初恋に終止符を打った俺はまだ本気の恋をしたくなかった。菜摘の手を取ればそれは遊びというわけにはいかない。だから高校三年になるまで菜摘のことからは目をそらし続けていた。今考えると最低だったんだなと思うけど、思春期の男なんてこんなものだ。チヤホヤしてくれる年上の女性が沢山いるのに手のかかる事がわかっている女の子と付き合おうとは思わなかった。

多分それが余計に菜摘に誤解される原因になっているのだろう。でもあれは過去の事だ。なんとかユカとはなんでもないことを証明してまた付き合ってほしい。

アメリカでただ黙って見ていないで話しかければ良かった。病院で拒否された事が怖くて声をかけられなかったなんてただの言い訳だと思われている。でも本当に拒否されたことは俺の心に刻まれていたのだ。菜摘はなんでも言うことを聞いていてくれたから甘えていた。

俺は今ある計画を立てている。あれほど気にしているユカと一緒にいるのは良くないと気づいたのだ。ユカに言えば反対されるだろうが、この際二人だけでやり直したい。菜摘が俺の手をとってくれたら実行に移すつもりだ。

だから気になる。菜摘は何を企んでいるのだろう。頭を悩ませているとLINEの音がした。


『蓮の勘が当たっていたようだ。あるところから情報が入った。どうも婚活パーティーに出席するようだ』


婚活パーティー? 誰が? 一瞬頭がフリーズした。


『誰が婚活パーティーに出席出るんだ?』


『菜摘さんだよ。彼女も思い切ったことするよね。とてもじゃないけどユカには言えないよ。こんな事を話したら私も行くって言い出すに決まっているからね』


確かにユカならあり得る。離れていた間は良かったが、ユカは菜摘の事を母親のごとく心配するのだ。ユカが知ったら婚活パーティーに出席して菜摘の側から離れないだろう。

だが俺からすればその方が有難いのだが、この様子では高木は許しそうにないな。まあ、結婚する相手に婚活パーティーに出席された事が親族にバレたら大変なことになるから仕方がない。

この件はユカには頼まないでなんとかするしかない。でも海外に来ている俺に邪魔が出来るだろうか。


『それで婚活パーティーとやらはいつなんだ?』


『四日後だ。お前が潜り込めるようにパーティー券は手に入れとくよ』


高木は俺が帰国すると思っている。確かにここで手をこまねくようでは菜摘を手に入れることは出来ない。


『ああ、頼む。秘書も連れて行くから二枚用意しておいてくれ』


返事を書いてから本当に出席できるか不安になって来た。あと四日と言っても時差や飛行機の時間を計算に入れなければならない。本当は今すぐにでも帰って菜摘を揺さぶってやりたい。まだ俺のものでもないのに、それでも婚活パーティーには行って欲しくなかった。


『わかった。仕事が終われるように健闘を祈る』


『必ず終わらせてみせる』


俺はこれから寝る暇もなさそうだ。もう寝ているだろう秘書も起こすことにした。

俺一人では手に余る。秘書を起こすために電話しようとしてたが菜摘に今日はLINEをしていない事を思い出した。どうするべきか悩んんだが、帰国するまで連絡をしない事にした。LINEの言動で婚活パーティーのことを知っているとバレるのはマズイだろう。

俺は頭を振って今日から俺に付き合わせる事になる可哀想な秘書に電話番号を押した。

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