第32話


「今現在の蓮を好きなのかわからない」


何でも相談しなさいとランチに連れ出されたわたしは正直に今の気持ちを言葉にした。するとユカ可愛い顔をコテリと傾げた。何を言ってるんだこの子はっていう顔だ。自分でもおかしな事を言ってる自覚はあるのでそんな顔で見ないでほしい。


「今も何も蓮は蓮でしょ。何も変わってないわよ」


「そうかな。ずいぶん変わったと思うよ。ユカはずっと一緒に過ごしてたからわからないんじゃないかな」


少しだけ棘があるセリフだったかもしれない。まあ、ユカには通じないだろうけど。


「ずっと一緒って、そうでもないわよ。蓮がアメリカに留学してた時はほとんど会ってなかったし、今だってこの間一緒に食べに行ってから一度も連絡とってないんだから」


さすがに学生の頃とは違うようだ。それにユカからは


「高校生の時だって自分とよりなっちゃんの方が一緒にいたじゃない」


とまで言われてしまった。でもそれは誤解だ。確かに高校三年の六月の終わりからは勉強会なるものを蓮の従兄弟のマンションを使って行っていたから一緒にいた時間は長かった。でも本当はユカだって一緒に勉強することになっていたけど途中からというか二回くらいで飽きて来なくなったから、必然的にわたしと蓮が一緒にいる時間が増えたに過ぎない。

わたしがそう説明するとユカは吹き出した。何かおかしな事を言っただろうか。


「それ、それ。あの勉強会って蓮の提案だったでしょ? 覚えてる?」


「覚えてるわよ。蓮は賢いから勉強会なんて必要ないのになって思ったもの」


だからユカのためなんだって思っていた。それなのにユカが二回で飽きてしまってわたしと二人だけで勉強会をすることになってどうしたらいいのか困っていた。でも蓮と一緒にいれる時間が嬉しくて自分からは『やめよう』って言うことが出来なかった。


「私が行かなくなって、てっきり勉強会は無しになったものと思っていたら夏休みが終わる頃にもまだ続いてるって聞いて蓮に問いただしたの」


ユカは我慢することが出来ない性格だ。きっと蓮はユカの迫力にタジタジになったに違いない。


「それで?」


「認めたわよ。なっちゃんをと二人っきりになるために勉強会を提案したんだって。私が飽きることは初めっから計算されていたみたいね」


「は?」


「要するに蓮は初めからなっちゃんをものにするつもりだったって事よ」


あの勉強会が罠だった? そんな事があるだろうか。わたしをモノにするために蓮がわざわざそんな計画を立てたなんて信じられない。


「ユ、ユカはそれを聞いてどう思ったの? 驚かなかったの?」


蓮はユカには言うなって言ってた。なのに自分から話していたなんてどうして教えてくれなかったのか。わたしはユカに黙っているのは辛かった。蓮がユカにはわたしとの仲を知られたくないんだってずっと思っていたのに。なのに八月の終わりにはユカは知っていたのだ。


「うーん。前にも言ったけど蓮がなっちゃんを見る目は飢えたような目だったから、あーやっぱりそうなったかとは思ったけど驚いたりはなかったわ。ただなっちゃんが話してくれないのはショックだったけど」


ユカはわたしとの恋のガールズトークを楽しみにしていたのに結局できなかった事が悲しいと言う。ユカを相手に恋のガールズトークなんてできるわけがない。きっと蓮のユカに対する態度のこととかそんな愚痴ばっかり言ってしまっただろう。そっちの方がずっと悲しい事だ。

それにわたしは蓮に恋していたけれど、蓮にとっては遊び相手の一人だって思っていたから……とてもじゃないけどユカには相談できなかった。

ユカはわたしのために蓮に怒ってくれたと思う。でもそんな事になったら蓮にまた冷たい目で見られる事になる。そして口も聞いてくれなくなるかも知れない。そんな風に思っていたのだからユカにだけは蓮との関係を話すことはできなかった。

それなのに、蓮はとっくにユカに話していたなんて。わたしってバカみたいだ。


「あれ? 私また何か地雷踏んじゃったの? ねえ、なっちゃんはなんで怒ってるの?」


わたしの顔は強張っていた。自分の馬鹿さ加減に腹を立てていた。


「これはユカの事を怒ってるんじゃないから気にしないで」


「そんな顔して言われても説得力ないよ。もしかして蓮に対して怒ってるの? 困ったなぁ」


ユカは本当に困っているみたいで機嫌を直してくれって何度も私に頼み込んでくる。でもこれはユカに謝られてもどうにもできない感情だ。

ユカがくれたユカの分のランチのデザートを食べながら「蓮のやつ、どうしてくれようか」と考えていた。

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