第22話



「そう、やっとネズミの国に行けたのね。なっちゃん、私たちが行った話を聞いてた時行きたそうな顔してたもんね」


確かに行きたかった。でもそんなに顔に出ていたとは思っていなかったのでショックだ。


「でもチケットも当日券だったから二時間も並ばないと入れなかったし、アトラクションもほとんどは回れなかったわ」


「夢の国とは思えないでしょう? その辺は現実的よね」


「そうなのよね。がっかりしたけど、パレードは素晴らしかったわ。あれを見れただけでも良かったかな」


ユカとはあれ以来こうして電話で話すようになった。金持ち特有のわたしとは合わない部分は相変わらずあるけど、悪気がないのはわかっているので気にならない。


「でも合鍵の件はどうなったの? それからも蓮は入ってきた?」


蓮が合鍵を作っているのではないかという疑惑をユカに話したのはまずかった。あの時は興奮していたのでついついLINEで相談してしまったけど今では後悔でいっぱいだ。


「ううん。あれっきりよ。っていうか蓮は今日本にはいないみたい。外国に出張になったって言ってたから」


ネズミの国からの帰りに蓮のスマホに電話があった。急な出張が決まったようで膨れていた。この後も予定を決めていたのにとかブツブツと文句を言っている蓮は高校生の時と変わっていないように思えた。


「相変わらず忙しいのね。口説く暇もないなんて不憫ね」


ユカは時々謎の言葉を言う。蓮がわたしを口説くってあり得ないのに。


「ねえ、もしかして部屋が繋がってるんじゃない?」


「は?」


「だから隣同士のマンションなんだからあり得るでしょ? 元々は一つの部屋の予定だったんだし」


「ユカ、それマジ怖いから」


私がプルプル震えながら言うと笑い声が聞こえた。


「確かにそこまでいくとストーカーだよね。でも好き合ってたらそう言う行為もストーカーじゃなくなるものよ」


やっぱりユカは理解できない。庶民とは考え方が違うようだ。


「でもなっちゃんも高校生の時は蓮と付き合ってたんだしまんざらでもないでしょ? 蓮は気前も良いしルックスだって私の好みとは違うけどまあまあ良いでしょ? お買い得だと思うわよ」


「あり得ないわよ。蓮は幼なじみだからわたしのことも気にしてくれてるけど、本来はユカみたいな人種としか付き合わない人物よ。


「私みたいな人種ってどう言う意味? 金持ちは金持ちとしか付き合わないわけじゃないのよ。昔っからなっちゃんはそういうこと言ってたけど偏見だからね。私はなっちゃんのこと昔から好きだし、付き合う相手のことお金持ちとかそういうの考えたことないから」


偏見と言われてそうなのかもとは思う。でも常識からして違うんだから付き合うのって難しい気がする。高校生の時は同じ空間で学校生活を送っていたからまだ話題があった。でも今はきっと話も合わないだろう。

ネズミの国にいくドライブの中でも話題はユカの結婚のことやユカの大学時代の話や……とにかくユカの話ばかりだった。おかげでわたしはユカのことで知らないことがないと言えるまでになった。だからユカが貧乏人と付き合ったことがないのも知ってる。付き合う相手の収入は気にしないと言ったユカだけど自然と付き合う相手を選んでいる。自分では気づかないうちにそう教育されているのだ。結婚する高木さんも超金持ちだし、ユカがお金に苦労することは一生ないと思う。

庶民が御曹司と付き合ったって最後は泣くことになる。わたしは高校生の時に身をもって経験したしもう泣きたいとは思えない。

電話が終わってからも蓮と今後どう付き合っていくか考えていた。とにかく強引だから流されないようにしないと高校生の時の二の舞になる。


「今日の夕飯どうしよう。食べに出るのも億劫だから冷凍食品でいいかな」


日本の冷凍食品の技術は日々進歩しているようでスーパーで見た時はホッとした。これでわたしの食生活も潤う。コンビニの弁当も飽きがくるし、外に出たくない日もある。特に雨の日は足が疼くから歩きたくない。


「ご飯も入ってるしこの冷凍食品の弁当って本当に良いわ。それにたこ焼きがいつでも食べれるなんて日本に帰ってきて本当に良かった」


日本の食生活はやっぱり良い。外国でも日本のレストランもあるけどやっぱり違う。時々びっくりするものが出てくる。味噌汁にスイカが入ってた時は呆れると同時に笑ってしまった。

鯖の味噌煮弁当を食べながらユカに言われたことを思い出していた。

冗談だとは思うが疑いたくなる部分もある。まさか本当に繋がってないわよね。

蓮の部屋の方を見ながら思う。このマンションは新築だと言ってたし、蓮所有のマンションだ。


「でもさすがにそこまではしないわよね」


否定しながらも気になったわたしは蓮の部屋とつながる部分の壁をくまなく調べたのだった。



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