第21話
ネズミの国は別世界だったけど、家族連れやカップルが多く場違いに感じた。
とにかく人が多く手を離したらわからなくなると言われて手を繋がれたけど離すと本当に迷子になりそうなので握る手に力が入ったくらいだ。
「なんかカルフォルニアとは違うわね」
「日本は狭いからネズミの国もセコセコしてるのかもしれないね。でもこうして手を繋いだりできるからいいこともあるよ」
なんかなぁって思う。高校生の頃の蓮はこんなキザな言葉は言わなかった。これが成長したってことなのか。眼鏡もかけて別人のような蓮はわたしが迷子にならないようにエスコートまでしてくれる。
「失敗したな。アトラクションは全部並ばないと入れそうにないけどどうする? 誰かに並ばせといたらよかったな」
おいおい、誰に並ばせるつもりなの? これだから御曹子は。
「何時間も並ぶのも嫌だから、それよりお腹が空いたわ」
朝起きてそのままドライブだったから何も食べていない。できたらお腹に何か入れたい。
「それもそうだな。ネズミと食べれるとこがあるって言ってたな」
「高校生じゃないから普通のレストランとかで良いから。ファーストフードでもいいわよ」
「じゃあ、イタリアンにでもするか」
歩いていると目の前にイタリアンの店があった。並んでいる様子もないのでそこに入ることにした。
注文は蓮がパスタのセットでわたしがピザのセットにした。
「ユカといった時もこんなに混んでたの?」
「どうだったかな。昔のことだから覚えてないな。昼に何を食べたかも覚えてないよ」
わたしは覚えている。二人に聞かされたから。でも行った本人は覚えていないのに聞かされただけのわたしが覚えてるなんてばかみたいだ。蓮とユカが食べたのはハンバーガーだった。二人とも初めてハンバーガーを食べたと自慢していた。
その事を覚えていたからだろうかわたしはカルフォルニアのネズミの国でのランチはハンバーガーにした。そして後悔することになった。とにかくサイズが大きいのだ。
巨大なバーガーをどうやって食べたらいいのか悩むことになった。大きく口を開けて四苦八苦しながら食べたのだが、味がどうだったのかは覚えていない。
ピザとパスタは半分取り分けて食べあった。テーマパークのレストランだったのであまり期待してなかったけど美味しかった。
勘定は割り勘にした。蓮はムッとした顔だったけど構わない。車まで用意してもらってるのにこれ以上借りは作りたくない。
「昔っから変なところで意地を張るな。別に昼食くらい奢らせてくれてもいいだろ」
「だから借りが増えていくと返済に困るから嫌なの」
「返済なんていらないよ」
お金に関することは御曹子である蓮とはどうしても話が合わない。昔からユカは気にせずに蓮に奢ってもらってるけどわたしはどうも苦手だ。蓮にとってははした金だってことはわかるけど嫌なものは嫌なのだからしょうがない。
「うわーすごい。パレードが始まったのね」
「ネズミのパレードか。これだけを見に来る人もいるって話だな」
ネズミのパレードは童話の世界に迷い込んだかのような気分になる。ネズミだけでなく犬や鳥もウサギも踊っている。これって音楽もすごい。本当に夢の国だね。
この年でネズミの国にって思ってたけど年齢に関係なく楽しめる不思議なテーマパークだった。
「朝比奈もテーマパークに興味があるの?」
真剣な表情でパレードを見つめている蓮を見て声をかけた。
「わかるか。九州の方のテーマパークを買うか検討中なんだ。テーマパークは難しいからな。新しいものがないとみんな興味がなくなって廃れていく。特に日本人は新しいものが好きだからな」
「仕方ないよ。何時間も待たせるんだから珍しくないと並んでまで来ないよ」
「東京は人口が多いから客数も見込めるが九州だと少し苦しいな」
仕事のことを考えてる蓮はまた違う雰囲気で見惚れてしまう。
「蓮は小さい頃からお医者さんになりたいってずっと言ってたけど、後悔はしてない?」
蓮はわたしの顔を見て苦笑した。
「俺は確かにずっと医者を目指していた。父さんに反対されても諦められなかった。でもあの事故で思い知らされたよ。俺は父さんが言ってる通り医者としての素質が欠けてた」
あの事故ってわたしが怪我をした事故のことだよね。ユカもとても気にしていた。
二人の人生を変える事故だったのだろうか? わたしは自分だけ大変で二人は変わらない世界を生きているように思っていた。大学も合格していたし卒業旅行の話を聞いていたから二人は怪我もしなかったから羨ましかった。
でもあの事故は二人にも影響があり忘れることのできないことだったんだ。
「だからね今は後悔してない。俺はこの世界で生きていくよ。いつか爺さんの跡を継いで朝比奈のトップに立つよ」
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