第13話 蓮side
「おい、事故にあったんだって、災難だったな」
「ああ、今ユカがCT撮ってるんだ。一也さんが診てくれるだろう?」
「親父さんに頼んだらどうだ?」
従兄弟の一也さんは俺と父親が進路のことで喧嘩をしている事を知っいてそんな意地の悪い事を言う。
俺は鼻で笑った。
「あんな奴にユカを任せられない」
「まだ意地を張ってるのか。もう進路も決めたんだし仲直りしろよ」
一也さんが呆れた顔で俺を見てるが知るものか。俺は小さい頃から父親と同じ外科医になると決めていた。まさか父親に反対されるなんて思ってもいなかった。「お前は医者には向いていない」この一言だけだった。一也さんの時には反対しなかったのに。まあ、一也さんは甥で俺は息子だから違うのかもしれないが。
「俺もお前は玲子さんの跡を継ぐ方が良いと思うよ」
玲子さんと言うのは俺の母親のことだ。何故か誰も彼女のことをおばさんとは呼ばない。昔から玲子さんと呼んでいる。
俺は一也さんの言葉に睨んだだけで何も言わなかった。玲子さんの跡を継ぐと言うことは朝比奈コーポレーションのトップに立つと言うことだ。お爺様にも望まれているが進路を決めた今でも医者への未練がまだ残っている。
「菜摘ちゃんは一緒に乗っていなかったのか?」
一也さんの言葉で我に返る。
「ああ、一緒に乗ってたんだけど俺と同じで外に投げ出されてて怪我もなかったんだ。でも運転手の方は駄目だった」
「そうか、残念だったな。でもお前は武道習ってるから自然と受け身を取れたんだろうが菜摘ちゃんは本当に大丈夫だったのか? もう一人救急の要請があったけど二人を受けた後だったから断ったて聞いたけど菜摘ちゃんじゃないだろうな」
「菜摘は一番先に確かめたんだ。どこからも血が流れてなかったし、呼んだら意識も戻ってたから大丈夫だよ」
俺は一也さんに話しながらも不安になってきた。
「歩けるのなら一緒に救急車に乗ってくれば良かったのに。彼女だってこんな事故の後だ。不安なんじゃないか」
一也さんの言葉に自分が菜摘を一人事故現場に残している事に気づいた。慌ててスマホで菜摘の電話番号を押す。すぐに留守電に変わる。LINEもするが既読にならない。怒っているのかも知れない。でもその方が良い。怒っているだけなら彼女は無事だ。
まさかあの後何かあったのか?
「どうしたんだ? 連絡が取れないのか?」
「ああ。電話に出ない。スマホは車の中にあるのかもしれない」
「気になるな。......池さん、さっき言ってた救急の患者って年齢を言ってなかった?」
一也さんが近くにいた看護師に尋ねている。
「いえ、聞いてないですけど....」
池と言う看護師が答えている時に電話のベルが響いた。すぐに彼女が電話に飛びつく。
俺はまた菜摘に電話する。頼むから出てくれ。
「朝比奈先生、さっき断った患者なんですがこちらにお願いできないかって宇和島病院から電話がかかってます」
「また宇和島病院か。あそこの外科の先生は若いから腕がまだまだなんだよ。そのくせ難しい手術でも引き受けて、結局失敗しそうになってうちに搬送してくるんだよ」
一也さんはブツブツ言いながらも電話を代わった。
「またですか? うちは駆け込み寺じゃないですよ。はい、はい。えっ? 高校生の女の子ですか? で、一回開けたんですか? 手に負えないって....わかりました。すぐ患者を搬送してください。先生も救急車に同乗してくださいよ。絶対に生きて連れて来てくだい」
俺は高校生の女の子言う言葉を聞いてスマホのLINEに書いていた手を止めた。まさか、菜摘のことなのか?
「お前は菜摘ちゃんを選んだんだと思ってたよ。昨日俺が聞いた時そう言っただろ? なんで軽傷のユカちゃんを連れて来て、菜摘ちゃんのことは放ったらかしにしてるんだよ」
「一也さん、違うんです。私が悪いんです。私、なっちゃんが担架に乗せられて救急車に運ばれてるの見てたけど、それを蓮に言ったら一人にされそうだったから言わなかったんです。血がたくさん頭から流れてて怖くて一緒にいて欲しかったから.....」
ユカは一気に言うとポロポロと涙を流し泣き出した。俺にしても一也さんにしても女の涙は苦手だから彼女には何も言えなかった。
俺はユカと救急車に乗る時にユカが何か言いたそうな顔をしていたことを思い出した。
「池さん、彼女の頭の縫合は福田先生にお願いしてください。後、縫合する準備も頼みます」
一也さんがユカを看護師に任せると俺を廊下に連れ出した。
「蓮は院長先生に菜摘ちゃんの手術を頼んでこい。今日は手術が午前中にあるからもう来ているはずだ。電話で話を聞いたが菜摘ちゃんの怪我は俺では助けられない。お前の責任でもある。お前がここを指定しなければ、菜摘ちゃんの方がこの病院に搬送されていて、あそこまで酷い状態にはなっていなかったんだ。わかったら、今すぐ院長先生に頭を下げて頼んでこい」
俺はエレベーターに走った。頭の中では一也さんの言葉が何度も繰り返し聞こえてくる。あの自信家の一也さんが自分では無理だと言っていた。あの時確かに菜摘は怪我をしていないように見えた。俺が呼べば目も開けた。それだけで俺は安心して彼女の側から離れて忘れてしまった。父が俺に医者には向いていないと言ったのはこれだったのかもしれない。一也さんなら医者になっていない高校生の時でも菜摘の怪我に気付くことが出来たはずだ。
俺は院長室のドアをノックすると返事を待たずに部屋に入った。
「蓮か。事故にあったと聞いたが怪我はしなかったようだな。ユカさんと菜摘さんも一緒だったんだろう。彼女たちの方は大丈夫なのか?」
父は俺たちの事故を知っていた。一也さんから連絡が入っていたのだろう。俺は父の前に立つと頭を下げて頼んだ。
「父さん、菜摘を、菜摘を助けてください。俺が...間違えて、菜摘が死にかけてます。一也さんが父さんにしか助けられないだろうって言ってました。お願いします。菜摘を助けてください」
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