第10話
「ユカにはあったのか?」
そろそろお暇しようかなと思っていたら急に蓮がユカのことを尋ねてくる。
ユカとは事故の日から一度も会っていない。意識を取り戻してからも彼女は一度も会いに来なかったから。彩乃よりも仲が良いと思っていた幼なじみであり親友のユカはあの日から他人になってしまった。わたしから連絡すればよかったのだろう。今ならわかるけどあの時は自分のことで精一杯でユカのことを考える余裕なんてなかった。ううん、違う。蓮がユカを選んだことがショックだったから八つ当たりしたんだ。ユカがわたしのことに蓮と同じように責任を感じて会いに来れないって知ってたのに連絡を取ろうとしなかったわたしはとても意地が悪かったと思う。
蓮はそんな意地の悪いわたしを知っているのだろうか? 知っていたらきっとこんなに親切にはしてくれない。責任を感じて色々と手配をしてくれるだろうけどもっと他人行儀になる。蓮の冷たい視線は中学の頃に一度だけわたしに向けられた。わたしがユカをいじめていると言う噂が広まったとき蓮はわたしを信じてくれなかった。ユカがハッキリ否定しなかったから噂を信じわたしのことを冷たい視線で見た。あの時はショックだった。幼稚舎の頃からの付き合いだったのに、三人でいつも遊んでいたのに悪意のある噂を信じてわたしは切られた。ユカがハッキリ言わなかったのはわたしのことが嫌いだったからではなくわたしを助けるためだった。噂を広めている犯人を炙り出すためだった。結果的にわたしが無罪だと分かって今まで通りの仲良しの三人に戻ったけれどわたしは蓮の冷たい視線を忘れることができなかった。そして蓮にはユカが一番でわたしは二番ではなく一番の付き人くらいの存在なのだと言うことにも気付かされた。
返事に時間がかかった。また冷たい視線で見られたらどうしよう。銀縁メガネの奥の瞳が冷たくわたしを睨んできたら立ち直れるか自信がないよ。
「まだ会ってないの。ユカとは蓮と同じでこの十年連絡も取り合ってないから電話番号も知らないの。結婚式の招待状には出席って返事をしたから結婚式で会えると思うわ」
「話がしたいと言っていた。連絡先を教えても良いか?」
わたしは蓮に連絡先を教えた覚えはない。
「何で知っているの? 」
「何を?」
「わたしの連絡先よ」
「言っただろ。このマンションのオーナーだって。住人の連絡先くらい知ってるさ」
「一歩間違えたらストーカーよ」
「誰も信じないさ」
美形は何でも許されると思うなよ。って言ってやりたい。
ユカに会いたいのかよくわからない。でもわたしが日本へ帰るきっかけはユカの結婚式の招待状だった。あれが届かなかったら日本への異動は断っていた。だからやっぱり会うべきなのだ。
「分かった。会うよ。でも二人だけで会いたい」
「何でだよ。俺も一緒に会いたい」
「わたしは十年ぶりなのよ。蓮はいつも会ってるでしょ」
「いや、さすがに最近は遠慮してるよ。俺のマンションに住んでるから住んでる場所は知ってるけど旦那になる高木と同棲し出してからは訪ねてないよ」
ユカの住んでるマンションも蓮のマンションなのか。彼女の家も金持ちだけど蓮の所みたいに不動産は持ってないからユカのために蓮が用意したのだろ。女の一人暮らしは危ないからって仕切りそうだよ。ユカも苦労したんだろうな。よく彼氏なんて作れたよ。
でも蓮は何でユカと結婚しないのだろう。ユカが嫌がったのだろうか。ユカは束縛されるのが嫌いだから蓮みたいな俺様が耐えられなかったのか。
「高木さんって蓮も知ってる人なの?」
「ああ、大学の時の先輩だ。ユカはその時付き合ってる男がいたのにいつの間にか先輩と付き合い出して心配したよ。高木先輩は遊び人だって有名だったから遊ばれてるんじゃないかって。でも大学生にもなって俺が口出すのも変だから我慢したけどな。まあ、泣かされるようなことになったら殴りに行く気だったよ」
蓮は大学生になって我慢も覚えたようだ。ユカに男ができたら大変なことになると思っていたのに意外と冷静だったみたい。蓮はユカのことを好きなのにずっと心の中に仕舞っておく気なのかな。
「大学生の時からの付き合いなら結婚が遅かったのが不思議ね」
「一回別れたんだよ。ユカが高木を捨てたんだ」
「えぇー! どうして?」
「高木は結婚したかったけどユカはまだ出来ないって言ったからダメになったんだ」
「でも今度は結婚する気になったのね」
「お前が結婚式の招待状に出席するって書いてたから結婚する気になったんだって言ってたよ」
蓮がおかしなことを言う。結婚式の招待状が送られてくる時点でもう結婚は決まってると思うんだけど、どうしてわたしの返事で結婚を決めたって話になるのかなぁ。それ以上は何を聞いても教えてくれなかった。
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