第4話
アメリカで暮らすようになって十年。あっという間だった。
特に始めの頃は手術をしたりリハビリをしたりの繰り返しだった。特にリハビリは辛かった。このまま立てないのではないか。本当に歩けるようになるのか。いつも不安だった。でも不安を打ち明けられるような家族も友人もいない。わたしの周りには日本語を話せる人すらはいないから尚更、寂しかった。日本語が恋しくて、蓮に会いたくて泣きながら眠る日々だった。努力の甲斐もあって歩けるようになると行動範囲も広がって友人らしき人もできて来る。そうするとアメリカでの暮らしは楽だった。蓮のことでイジイジと悩んでいた自分とサヨナラできた。日本にいればきっと無理だったと思う。
ビザの関係で日本に帰ることもあったが殆どアメリカで過ごした。もうこのままアメリカで一生を終えるのもいいかもと思っていたわたしに転機が訪れたのは三ヶ月前。
幼馴染みの相田ユカがの結婚式の招待状が両親経由で送られてきた。幼馴染みといってもこの十年疎遠だったのに何故招待状が送られてきたのか不思議だった。
丁度その頃、来年の春から日本の本社で働かないかと勧められていたので、これを機会に日本へ帰る事にした。いつまでも逃げているから前へ進む事が出来ないのだ。
十年も住んでいればそれなりに荷物も増えていて、殆どの荷物は船便で送る事にした。時間はかかるけど船便の方が断然安い。
住む場所はとりあえず実家でいいかと思っていたら、わたしの部屋はないと兄に言われ本社の方で手配してもらう事にした。
十年の間に兄は結婚して両親と同居していた。しかも二世帯住宅に建て直していて、わたしの昔の荷物はダンボールにいれられて倉庫の隅に置いていると言われた。
「よく日本へ帰る事にしたな。菜摘はもう帰らないのかと思っていたよ」
十年の付き合いになる親友のリチャードが心配そうな顔でわたしに言った。彼とは一時期一緒に暮らしていた事もある。とても気があうし素敵な男性なのに何故か親友以上の関係にはなれなかった。
リチャードはわたしが今だに事故の時の夢を見て夜にうなされる事も知っている。
「逃げるようにここへ来たから。前へ進むためにも一度日本に帰ろうと思うの」
「そうだな。その方が菜摘のためになるんだろう。日本帰って吹っ切れたら戻って来たらいいよ。世界にはイイ男は沢山いる。この俺を含めてね」
さすが外国人は言うことがいちいちキザだ。わたしが本気にしたらどうするんだろう。リチャードには日本人の素敵な婚約者がいるというのに。
リチャードの婚約者である西野依子はわたしと同じ会社で働いている。秘書課勤務の彼女は三年前に上司の転勤と一緒に支社配属された。普通は秘書まで一緒に連れて来ることはないので、誰もが二人は付き合っているのだろうと思っていた。
リチャードは彼女に一目惚れして、何度もアタックした。さすがに付き合っている恋人同士に割り込むのは如何なものかと思って何度もリチャードには諦めるように説得した。結局上司の男と西野さんは恋人同士でも何でもなかったので略奪愛にはならなかったけど、一時はどうなる事かとヒヤヒヤさせられた。
「ねえ、菜摘さん。私が何故ここに配属されたか前に聞かれたでしょう?」
「ええ。理由は言えないって言われたわ」
「今はまだ言うことができないんだけど、次に会う時にはきっと話せると思うの」
わたしには西野さんが何を言いたいのかわからなかった。でも彼女が本当は言いたいけど言えないのよっていうのが伝わってきたので、彼女を安心させるように笑って答えた。
「次に会うのはあなた達の結婚式になりそうね。その時まで楽しみにしてるわ」
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