第17話

「最近、夢の話をしないのね?」


 退院して暫く、俺は相変わらず姉チャンのアパートに入り浸っていた。

ゴロ寝用の枕を抱えてゴロゴロするばっかだけど、1人の時間が寂しくて。


「うん。何か、もぅ、ど~でも良いかな~? って」

「どうでも良いって……」


 姉チャンは『聞き捨てならない』って言いたげ。でも、良いんだよ。ホントに。


「コーヒー、貰うよ?」

「どうぞ」


 姉チャンが入れてくれた熱々のコーヒー。

こうゆう何て事ない日常の端々で先生の事を思い出しては、懐かしさを感じてる。


(あれから何度もフライトしてる。過去も未来も、だいぶ自在になって来た。

 だからかな、どっかで探してしまうんだ。

 もう1度、あの人が生きていた時代に飛べないだろうか? って)




 『この時間は、消失する……』




(解かってるよ、先生。

 あの爆発の衝撃で、あの時間は消失してしまったんだよね?

 俺があの時間に辿り着けた自体が奇跡だったんだ。

 だから もう2度と会えない。もう2度と、戻れない時代と時間……)




 『僕達はもう友達だ。サヨウナラ、朔』




(うん。友達だよ、先生。だから、サヨナラ、先生……)



 最近こうやって物思いに耽ってしまうもんだから、姉チャンは余計に心配性になった。


「朔、お姉チャンね、何だって……」


 姉チャンは姉チャンだから。弟の俺を守ろうとしてくれてる。今できる精一杯で。

だから俺も。今できる精一杯で応えたいと思うんだ。



「うん。あのね、夢の中でさ、スゲぇ良い人に出会ったんだ。それでね、」



 俺の見た夢を語ろう。俺を伝えよう。

耳を傾けてくれる人が側にいてくれる以上は。


(でもね、先生、無意識にもアナタを探してしまう俺を、俺は許しても良いよね?

 だって、それが今の俺なんだから)




 『宜しいじゃないですか。それが朔です。許してお上げなさい』




(そんな声が、何処からか聞こえたような気がした)






FIN

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Flight boy 坂戸樹水 @Kimi-Sakato

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