第14話

「朔、キミが居たい場所、帰りたい場所を心に描きなさい。

 キミは それに向かえるだけの力を持っているよ。

 そして、その思う力がバラバラに分解されて行ったキミをもう1度構成するでしょう。

 キミだけが抱ける感情。感覚。ソレらが全て、キミを導くでしょう」


「俺が、俺を導く……?」


「キミが、キミであろうと望む気持ちが真理です。だから、全て、今のままで良いのです。

 朔、キミは今のままで良いのです。だからこそ、僕達はここで出会えた」


 あぁ、何か、難しいよ。でも、何と無く、解かるよ。先生の言葉。

だからかな、涙が止まんないかも。


(このままで、良い? 現実も夢も俺自身も、今のままで良い……?)




『朔の事は、姉チャンが守る! だって私、朔の姉チャンだから!』




(姉チャン……)




『だから朔は、姉チャンを信じて』




(あぁ、そうだ……このままで良い。このままが良い。

 姉チャンの弟でいたい。そんで、いつか俺が姉チャンを守るんだ。

 それまでの分、倍返しで)


 胸の中で張り詰めていた糸って言うのかな、それがさ、静かに溶けて途切れるんだ。

一瞬、温かくて、跡形も無くなる。

そうすると、不安って感情が何処にも捉えられなくなって、そんな解放感が涙になるんだ。


「男のクセに、泣くとか、カッコわる……、、」

「宜しいじゃないですか。それが朔です。許してお上げなさい」

「ハ、ハハハ、そうだね……」


 許してあげよう、俺自身を。俺でしかない俺を。



 ミーンミンミンミンミン……

 ミンミンミンミン……



 蝉の声が一層に力強くなる。

先生は立ち上がって、窓を開けて、上空を仰ぎ見た。

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