第13話

 肉体ってもんを持たないでいる所為か、何つぅか、こぉ……ダイレクト。

先生の澄んだ言葉であったり、声であったり、その優しい表情が本物なんだって、

俺に疑う余地を与えない。


「依存しあうのでは無く、支え合う関係を築けたなら、

 それは僕らにとって幸いな事だと思わないかい?」

「……、、」

「だって僕らは、今日ここで出会えたのだから、

 そんな時間を過ごせたとしても、不思議な事じゃない」

「……っ、、」


 こんなにも簡単に説き伏せられちゃうもんなのか、俺は。

いや、受け止められたかった、俺の不安を。察して欲しかった、本当の所を。

我儘な勝手な言い分だってのは解かってる。

でも、伝えるべき言葉か見つからなくて、だから……何を言わなくたって、求めなくたって、



(見て欲しかったんだ、俺を……)



 先生には、俺が、視える――


「―― ほ、本当だったものが、偽者になりそうなんだ……

 自分が何処にいるのか、解からないんだ……」


 肉体があろうが無かろうが、

俺はきっと自分の輪郭が判らなくなるくらい、自分が見えなくなってたんだ。


「居て良い場所も帰る場所も無くなって、もしかしたら、今にも消えちゃうかも知れない……

 でも、そうゆうの認めちゃえば、もっと辛くて厳しくなるだろ、、

 常識とか知識とかで自分 繕って、何でもかんでも笑って誤魔化さなくちゃさ、、

 だって、誰にも心配かけたくないんだっ、誰の苦にもなりたくないんだっ、」


 姉チャンは、不幸なんじゃないかって。

俺の為に、俺の所為で、姉チャンは働いて、働いて……

姉チャンの幸せを俺が食い潰してるみたいで……


「今の俺じゃ駄目なんだっ、こんな自分は偽者であって欲しい!

 でも、これが俺なんだよっ、だから分らない、全部、全部、解からない……

 少しずつ分解されて行くんだ! 劣化して行くんだ! どんな姿でもいられない!

 だから、だから、怖いんだ……」


 俺が、声を潜め、声を荒げ、声を殺して、そうして訴えると、

先生は人差し指を天に向けて言った。


「朔、全てはキミの望むがままだよ」


「……」


 俺の目は先生の指先の向く方へ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る